卯花月と恋の駆け引き(土沖/SSL)
*エイプリルフールネタ
*ギャグ路線ではありません、総司が乙女です
四月一日、エイプリルフール
今日は年に一度、誰に嘘を吐いても正当化される奇想天外な日である。
一体誰がこのような日を制定したのかは知らないが、特定の人物に限って日常的に悪戯の限りを尽くしている総司からすると、正に夢のような一日であった。
春休みで学校が無いから・・・などという理由は些細なもの。
むしろ、『教師と生徒』という隔たりを気にすることなく自由奔放に事に及べる。
昔馴染みから恋人に昇格して初めて迎えたこの日。
王道だが、思惑通りになれば十割十分愉快な気分になれるであろうとっておきの嘘を胸に、満面の笑みを湛えながら総司は携帯電話の通話ボタンを押すのだった―――。
土方に電話を掛けてから暫し・・・眉をハの字に歪め、不安げに翡翠を揺らしながら、ベッドの上で小さく身体を丸める総司の姿があった。
この世の終わりを知ったかのような失意に苛まれ、頭の中で幾度目かに響き渡る彼の言葉に泣きそうなほど表情が歪んでいく・・・。
『もしもし、土方さんですか・・・?』
『どうした総司?急に改まって。』
『実は僕・・・他に好きな人が出来たんです。だから・・・その・・・・・・』
声を沈ませ、勿体つけるような言い方をする総司は、役者顔負けの演技力。
これならば悪戯に慣れきっている土方でも簡単に信じるだろうと、内心ほくそ笑んでいたのだが・・・次の瞬間彼の口から飛び出したのは、全く予想だにしない台詞であった。
『別れてぇ、か・・・。ならちょうど良かった、俺もお前に話さなきゃいけねぇことがあったんだ。・・・・・・来月、結婚することになった。』
『え・・・?』
『この歳にもなると姉貴達が煩くてな。ものは試しと見合いをさせられたら満更でもなかったんで、急な話だが来月籍を入れる運びになった。・・・すまなかったな、言うのが遅くなっちまって。』
鈍器で頭を殴打された気分だった。
目の前が真っ暗になり、嘘か真実かの判別もつけられないほど余裕を失い、電話口から聞こえてくる淡々とした声音に、開かれたままの口がはくはく・・・と小さく戦慄く。
ほんの戯れに過ぎなかったのだ。本当に、土方と別れたいわけではない。
されど・・・捨てられるかもしれない底知れぬ恐怖に一度呑まれたら、術を忘れてしまったかのように一声も発することが出来なくなった。
『お前の気持ちを裏切るようでなかなか切り出せずにいたんだが、そうか・・・お前も他に好きな奴を見つけたんだな。そういうことなら、俺も安心して嫁さんを迎えられる。』
『・・・っ、土方さ・・・!!』
『じゃあな、総司。春休みの宿題ちゃんとやってくるんだぞ。』
エイプリルフールだからといって、調子に乗って騙そうとなどと考えたから罰が当たったのだろうか。
まさか本当に土方との関係を終わらせる羽目になるとは夢にも思わなかった。
打ち明ける機会を窺っていたということは、少なくともまだ・・・自分を大切に想ってくれていたのだ。
いつかは話さなければならないとしても、少しでも傷つかぬようにと。
修復出来る可能性は0じゃなかった。
それなのに、ほんの些細な悪戯心が全てを台無しにしたのだ。
「っ・・・ふ、ぇ・・・。やだよぉ・・・、やだぁ・・・っ・・・!!」
自分から別れ話を切り出しておいて、今さらどう引き止めろというのだろう。
既にして、近藤よりも遥かに大きな拠り所となっている彼を失うなど、到底耐え切れるはずもない。
(僕がいけないんだ・・・全部、僕が・・・っ。)
自らが招いた別離に怯えながら、総司はただ・・・届かぬ願いを呟いて、静かに泣き濡れることしかできなかった。
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