誰にもやらねぇ俺の花(土沖♀/SSL)
*実話を元に色々盛って捏造した話
*総司がとにかく純粋乙女、ご注意下さい
「え・・・これ、何?」
土方の仕事終わりを待ちながら、手持ち無沙汰に携帯電話を弄っていると、登録してある交流サイトに見知らぬ男性からメールが届いていることに気付く。
文面を見ると、同一の趣味・趣向があるので交流しませんか?という、一見好意的な印象を伺わせるそれだった。
しかし、何処か違和感を感じさせるそれは、突発的な行為に困惑する総司に更なる不安を与えて止まない。
送られてきたメールに対して応答なしというのは気が引けるが、おいそれと返信してやる気にもなれず、意図を探る為にもと、とりあえず相手のプロフィールを開いてみる。
好きなものや趣味、まともなことが六割近くを占めているものの、本来そこまで書く必要のない身長や体重、本当かどうか疑わしい己の容姿に至るまで事細かに記されていれば、些かの嫌悪感を覚えずにはいられない。
自分に宛てられたメールの本文に、当人の所在地があったことにも怪しい引っ掛かりがあった。
(なんか、やだな・・・気持ち悪・・・っ。)
同じ趣味を持つ人と交流する為のツールなのだから、至極当たり前の行為であるはずなのに・・・。
それでも、底知れぬ不安と恐怖で押し潰されてしまいそうだ。
ひやりとした感覚が背筋を駆け上がる。
大きく肩を震わせると、総司はソファーの上で身体を小さく丸め、蹲るような体勢をとった。
すると、纏う空気が変わったことに目敏く気付いた土方が、一瞬も目を離さずに見入っていたモニターから視線を外してこちらを見、簡潔に問うてくる。
「どうした、総司。何かあったのか?」
「っ・・・。」
息を呑むような、言葉を詰まらせるような反応を見せてくる総司。
明確な答えを得ずとも何かが起きたのだと察すると、素早く席を立ち、迷うことなく彼女の傍まで歩いていって、肩膝をついた。
色白で柔らかい頬にそっと手を当てると、苦笑するように笑い掛けながら、安心させるように落ち着いた声音で語り掛ける。
「言ってみろ。」
「・・・・・・。」
「大丈夫だ。何があったのか知らねぇが、此処には俺がいんだろ?」
「う、ん・・・。」
うっすら涙の膜が張った翡翠を不安そうに揺らめかせると、こくりと素直に頷き、消え入りそうな声量でもって事の次第を口にした。
語り終えるまでの間、微かに震えを帯びる手できゅっと土方のシャツの袖を握り締めながら・・・。
「ったく、女とありゃあ見境なくって感じだな・・・。いい度胸してやがるぜ、このナンパ野郎。」
ソファーに腰掛け、怖がる総司の身体を抱き締めてやりながら、例のメールに目を通す土方。
湧き上がってくるのは嫌悪感と、抑えようのない怒りの感情のみ。
他人(ひと)の女に手を出そうとしただけでも許せないというのに、愛する総司を泣かせるとは。
差出人の男はどうやら相当の命知らずらしいな・・・と、心の中で殺意の籠った愚痴を漏らす。
「心配すんな、こんなの無視しときゃあいいんだよ。こういう野郎は、餌を蒔いて女が食いつくのを待つしか能がねぇ駄目男だ。相手にする価値もねぇさ。」
「で、でもっ・・・。」
「はぁ・・・。お前なぁ、こういうサイトに登録してる以上、ナンパメールが来ることくれぇ予想出来ただろうが。そういう意味じゃあ、お前のガードが甘すぎんのにも問題あんだぞ?」
高校の友人との連絡ツールとしてしか使っていないと先刻彼女は言ったが、全員が全員同様の目的でサイトを利用しているわけではない。
然るに、こういう事態が起こったとしても、あまり強い文句は言えないのだ。
「むぅっ。ただでさえ落ち込んでるっていうのに、これ以上追い詰めないで下さいよ。この薄情者!!」
「誰が薄情者だ。ちゃんと慰めてやってんだろうが。」
「それにしては掛ける言葉が辛口過ぎやしません?僕、物凄〜く傷ついてるんですからね!!」
ぷくっと頬を膨らませて講義する総司。
こんな時にこそ恋仲にある土方に優しく慰めてもらいたい、そう願ってしまうのは恋する乙女の性だろう。
彼女が求めているものを理解出来ない土方ではない。
だが、言うべきところはしかと言わなければ。
この先また同じ目に合わないとも限らないし、花も盛りの総司にとって、危険が潜んでいるのは何もネットだけとは限らないのだ。
むしろ、現実社会の方がネットの何倍も彼女に危険を運んでくるだろう。
己の預かり知らぬところで泣かれる事態にだけは絶対にしたくない。
喚き散らす総司の背を引き寄せて抱き込むと、もがく身体をぎゅっと拘束しながら一喝するようにぴしゃりと言い放った。
「だったら辞めちまえ、そんなもん。そもそも俺は一言も許可してねぇぞ。」
「はぁ!?どうして土方さんに許可して貰わなきゃいけないんです。」
「お前が俺の女だからだ。皆まで言わなくても気付きやがれってんだよ、このませガキ。」
「ま、ませ・・・っ!?子供扱いしないでって何度も・・・!!」
「てめぇの男の気持ちも汲めねぇような鈍感には似合いの呼び名だ。悔しかったら、俺の女だっていう自覚をもっと持ちやがれ。」
悪意どころか、端から端まで好意に彩られた思いやり溢れる言葉。
されど、素直になれない総司には中々「はいそうですか」と受け取ることが出来ず、ついつい反抗的な態度を取って、本心とは真逆のことを口走ってしまうのだった。
「俺の女だなんて、物みたいに言わないでよ!!この俺様っ!!自意識過剰男―――っ!!!」
その後土方は、交流サイトから綺麗さっぱり総司の情報を削除した。
例のメールの送り主を、これでもかと大袈裟に盛った話と共に運営側に通報してから・・・。
ちなみに・・・同じ趣味だと言って記載されていたのは、何故か『俳句』だったらしい―――。
― fin ―
2012.10.29
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