愛染−あいぞめ−(土沖/SSL)



*『無自覚な感情』と同設定
*ホワイトデーネタ


三年生の卒業式も済んだ三月の中頃。
年度末であることに加え、間もなくやってくる新年度の準備にも追われている土方は、今日も休み時間返上で仕事に明け暮れていた。

中間管理職の性というか、教員でもあり役付きでもあるという微妙な立ち位置のせいで、その仕事量は他の職員の誰よりも多い。
しかし、実際にはこれほど働き詰めなければ終わらないということでも無いのだ。

残ってしまった仕事だって持ち帰って自宅でやれば済むことだし、私立とはいえ一応は公務員、土日祝日は必ず休みなのだから、充てられる時間等それこそ幾らでもある。

だが、あえて土方がその方法を取ろうとしないのにもちゃんとした理由があった。

ただでさえ少ない二人の時間を削りたくない。
せめて休日くらいは愛する恋人の我が儘に好きなだけ付き合ってやりたい。

故にこうして、若干無理をしてでも勤務時間中に雑務を出来る限り片付けてしまいたいのだ。


「ひ〜じかったさんっ、お邪魔しますよ〜。」

毎度ノックの一つすらしてこない無遠慮さに頭を抱えたくなるが、注意して改めるような人間でないことも重々承知している。
不毛なやり取りになることは目に見えているので、土方は喉元まで出掛かった言葉を早々に飲み込んだ。

ぱたぱたと音がしそうなくらい軽快な足取りで近寄ってくる総司は、どこか期待に胸を躍らせているような雰囲気を纏っている。
ただ単に、休日前でテンションが上がっているという訳でも無さそうだ。

「どうした?随分と機嫌が良いじゃねぇか。」

「そう見えますか?まぁ、強ち間違いでも無いんですけどね。」

そんなことより・・・と話の腰を折りつつ、椅子に座る土方の首に腕を回して甘えるように抱きつく。
何かを企んでいる時にしか発しない猫撫で声を使いながら、御伺いを立てるような口調で問い掛けてきた。

「ねぇ土方さん、明日は一体何の日でしょうか?」

「ふっ・・・。さて、何の日だったかな?」

「むぅ、本当にわからないんですか?」

「むくれんなよ。明日はホワイトデーだろ。」

人をからかうのが趣味のような性格をしているにも関わらず、案外と人にからかわれると直ぐに真に受けてしまう総司。
そんな素直さが、堪らなく愛しさを募らせていく。

正面に向けたままだった身体を総司の方へと向け直すと、頭を引き寄せ後頭部に手を添えながら静かに唇を重ねた。

「・・・っ、ん・・・ぅ。」

舌先でぺろりと上唇を舐め上げれば、まるで先を望むようにおずおずと口が開き、土方のそれを拒むことなく自身の口内へと招き入れてくる。

いつ誰に見られるとも知れぬ校内ではあまりしてもらえない為か、うっとりと細められた双眸からは嬉しさを含む一際穏やかな光が放たれていた。

差し込んだ舌を絡ませ、砂糖菓子を溶かすような甘く蕩ける口付けを幾度も交わしていく。
名残惜しげに唇を離すと、互いの舌先をとろりとした銀糸が繋いだ。


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