酔っ払い猫にご用心(土沖/幕末/微裏)
お決まりの質素な夕食を終えると、土方はやりかけの仕事を済ませようと足早に広間を後にする。
永倉達が酒盛りをしようと話しているのが聞こえたが、特に気に留めることもなく土方は自室に向かって歩いていった。
それから一刻半ほど経った頃・・・。
仕事を全て終わらせた土方が再び広間へと足を向けると、中ではまだ永倉達が酒を片手に騒いでいる。
「いつまでも騒いでんじゃねぇ!!近所迷惑だろうが!!!」
広間全体に土方の怒声が響き渡った。
「げ、土方さん?!」
「さっさと片付けて寝やがれ、幹部のお前らがそんなんじゃ他の隊士達に示しが付かねぇんだよ。」
鬼の副長の怒鳴り声ですっかり酔いが醒めてしまったのか、永倉・原田・藤堂の三人は慌てて後始末を始める。
その作業を監視していると、隅の方で壁に寄り掛かりながら四肢を投げ出すようにして座っている総司の姿が目に入った。
三人が忙しなく動き回っているというのに、総司は俯いたまま微動だにしない。
不審に思い近づくと、肩膝をついて覗き込むようにしながら声を掛ける。
「総司・・・どうした、気分でも悪いのか?」
掛けられた声にぴくっと反応して、ゆっくりと総司が顔を上げた。
かなり酒が入っているのか頬が赤みを帯び、潤んだ翡翠色がうっとりとこちらを見つめてくる。
普段からだらしなく着ている着物が余計に乱れて、扇情的な姿に土方の心臓はどくんと大きく跳ねた。
ぼんやりと土方の顔を眺めていた総司が、ふいに土方の背中に腕を回し甘えるように抱きつく。
「土方さんらぁ・・・。」
呂律の回らない口で名前を呼び嬉しそうに笑みを零す総司。
二人きりの時ならばともかく、馴染みの幹部達がいる前でこうして抱きつかれるなど初めてのことなので、土方も他の幹部達も驚き固まってしまった。
しかしそんな周囲の反応など露知らず、総司は土方の胸に頬を摺り寄せながらきゃっきゃと満面の笑みではしゃいでいる。
「土方さんも一緒に飲みましょうよぉ?僕、お酌してあげますからぁ・・・。」
「飲まねぇよ。」
「え〜。」
「『え〜』じゃねぇ、もう寝ろ。」
「じゃあ・・・土方さんと部屋でいいことしますぅ。」
上目遣いで誘うような視線を送ってくる総司、だがここで流されてしまうわけにはいかないと土方は自分を叱咤する。
「ふざけたこと言ってねぇでさっさと離れやがれ、この酔っ払いが!!」
抱きついたままの総司を引き剥がそうとして肩に手を掛けると、離れたくないと言わんばかりに背中に回っている腕の力が強くなった。
「嫌でしゅぅ!!」
「でしゅって、お前なぁ・・・。」
駄々っ子のようにいやいやと頭を振るばかりの総司に呆れ顔でため息を吐くと、仕方なく土方は総司の身体を抱いて立ち上がる。
「俺はこいつを部屋に連れて行く、ここの始末は任せたぞ。」
「お、おう。」
三人にそう命じて広間を後にする頃にはすっかり総司も大人しくなっていた。
土方に抱っこしてもらったことで機嫌を良くしたのか、今度は首に腕を回してしがみついてくる。
こんな状態で平隊士にでも遭遇しようものなら新選組副長と一番組組長の威厳など形無しだろう。
どうかそんな事態にはならないことを祈りながら、土方は総司の自室へと足早に歩を進めるのだった。
他の隊士に出くわすことなく無事に総司の自室まで辿り着くと、土方は総司の身体を畳の上に降ろして布団を敷き始める。
これだけ酔いが回っていたら自分で寝る支度など出来ないだろう。
てきぱきと布団の準備を済ませると次は寝巻きを出して総司に渡した。
「にゃ?」
手渡された寝巻きを見て首を傾げる総司、どうやら着替えも一人では無理そうだ。
やれやれと盛大なため息を吐きながら土方が総司の着物に手を掛ける。
「土方さん、僕に欲情したんれすかぁ・・・?」
「してねぇよ呆け!!」
とてつもなく的外れなことを口走る総司。
しかしどこかその表情は嬉しそうで、その先の行為を期待しているようにすら感じてしまう。
(このまま襲っちまったら、それこそ総司の思うつぼじゃねぇか・・・。)
そう自分に言い聞かせて何とか理性を保ち、一枚また一枚と総司の着物を脱がしていく。
素肌が眼前に晒されるとごくりと無意識に生唾を飲み込む音が聞こえた。
日々の鍛錬で鍛え上げられた無駄な肉の一切無い引き締まった身体。
近所の子供達と毎日のように外で遊んでいるにも関わらず、その肌は部屋に籠りっきりの自分に負けないくらい色白でほとんど日に焼けていない。
土方が総司の身体に目を奪われていると、脱がしかけの黒い着物を腕に絡ませたまま総司が顔を近づけてくる。
「土方さん・・・接吻、して?」
とろんとした目で口付けを強請る総司の姿は酷く妖艶なもので、強固な土方の理性ですらぐらりと揺るがせるほどの破壊力を備えていた。
(っ・・・後で後悔したって知らねぇからな。)
土方が腕を引き総司の自分に身体を引き寄せる、そしてそのまま熟れた唇に自分のそれを押し付けた。
「ん・・・ふ、ぁ・・・・・・」
角度を変えながら何度も唇を重ね、僅かに開いた隙間から舌を差し入れる。
歯列の奥にある総司の舌を絡め取れば、応えるように自らもそれを絡ませてきた。
夜の静寂の中に激しい接吻の水音だけが響き渡る。
しばし堪能した後舌を引き抜けば、くちゅりという音と共に互いの間を細い銀糸が伝った。
これほど濃厚な口付けを交わしてしまったらもう湧き上がる熱を抑えることが出来ない。
かくん・・・・・・
「へ?」
先へ進める気満々だった土方の胸に突如総司の身体がなだれてくる。
まさかと思い視線を下げれば、満足げに顔を綻ばせながら熟睡している総司の姿。
お約束過ぎる光景に土方は言葉が出ない。
(煽るだけ煽っておいて寝るんじゃねぇぇ!!!!)
流された自分も悪いので怒るに怒れない土方の悲痛な叫びが心の中に無残に響き渡った。
― fin ―
2011.08.02
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