天然育ちの翠の花(土沖♀/試衛館時代)




稽古が終わった後も一人道場に残って素振りをしていた総司。
そろそろ切り上げようと思い自室に向かって歩いていると、途中にある広間から何やら話し声が聞こえてきた。この騒がしい声は永倉達だろう。

「・・・でよぉ、そこの娘さんにあの人が手を出したって噂で持ちきりなんだよ。」

「まぁ、土方さんのそういう噂はそれこそ売るほどあるからな。今更一つや二つ出てきたところで別に驚きゃしねぇが・・・。」

「しっかしほんと節操ねぇよなぁ、土方さんて。」

「土方さんがどうかしたの?」

素通りしても良かったのだが、『土方さん』という言葉がしきりに聞こえてくるので総司は広間の中にいる三人に声を掛けてみる。
すると廊下に一番近い場所に立っていた藤堂が振り返った。

「よぉ、総司じゃん。今までずっと稽古してたのか?」

「うん。それよりも教えてよ、あの人また何かしたの?」

「またっていうか、ある意味いつも通りだな。」

「あの人があちこちで引っ掛けてきた女の一人が身籠っちまったらしい。といっても、一方的に相手の女がそう言っているだけだから真偽のほどは明らかじゃねぇんだけどな。」

「ふ〜ん、そうなんだ。」

顔の良い土方がそれを利用して行商先の女性を引っ掛けてくるなどという話は今に始まったことはない。
それは彼を知る者ならば誰しもが存じていることであるし、別段真新しい話題でもなかった。

故に普段それ以上会話が発展することなど無いのだが、今日は珍しく総司が疑問を口にする。

「ねぇねぇ、よく土方さんが女の人と密会したとか関係を持ったとかっていう話を聞くけどさ。それって何か問題があるの?」

「いやいや大問題だろ、夫婦じゃねぇのに子供が出来るんだぞ?」

「そこだよ、そこがよくわからないんだよね。何で土方さんが女の人と密会すると子供が出来るわけ?」

「「「は?」」」

「っていうか、そもそも子供ってどうやったら出来るものなの?」

真面目な顔でさらりと爆弾発言をかましてくる総司に室内の空気は瞬く間に凍りついた。
自分の発言を聞くなり固まってしまった三人に総司はきょとんとした顔をする。

「どうしたの、みんな固まっちゃって?」

「・・・・・・総司、お前まさか・・・その歳で子供の作り方知らねぇのか?」

「わからないから聞いてるんじゃない。」

(((マジかよ・・・。)))

作り方どころかもう実際に子供がいたって何らおかしくない年齢だというのに、総司は男女の睦み合いの意味すらまるで理解していないようだった。
いくら剣術一筋で生きてきたとしてもさすがに二十歳を過ぎてそれは無いだろうと三人は思う。

恐る恐る原田は総司に尋ねてみる。

「なぁ総司・・・あんましこういうことを女に聞くってのもどうかとは思うんだが、その・・・お前『月のもの』はちゃんときてるんだよな?」

「つきのもの?・・・あぁ、月に一度すっごくお腹が痛くなって下から血が出てくるあれのことですか?」

「ばっ・・・!!お前、少しは恥らえよ!!!」

せっかくあやふやな表現をしてやったというのに、馬鹿正直に直球で言葉を返してくる総司。
年上で大人の原田と永倉はともかく、只今青春真っ盛りの藤堂には刺激が強過ぎたのか、顔を茹蛸のように真っ赤にしながらあんぐりと口を開けている。

「ふぇ?あれって女の人も男の人もみんななるんじゃないんですか?」

「いやいやならねぇから。」

「どこでそんな間違った情報を仕入れてきやがったんだよお前は。」

「じゃ何か?お前今までずっと子供はどっかから湧いて出てくるもんだとでも思ってたのか?」

「さすがに湧いて出てくるとは思ってないですけど。前に近藤さんが『子供は授かり物だ』と言っていたので、夫婦になったら誰かが授けてくれるものなのだとばかり・・・」

「んなわけねぇだろうが!!」

あの性格の近藤が総司にまともな性教育など出来るわけがない、そもそも期待する方が間違いなのだ。

近藤がこうだと言ってしまえば総司はその情報を疑いもせずに真だと思ってしまうだろうし、何より総司はまだ男と恋仲になった経験が一度もない。
土方に想いを寄せているのはその行動を見れば明らかなのだが、素直に想いを伝えられぬままずるずると歳を重ねてしまった。

そうした偶然が幾重にも重なった結果、誤った知識を一切正されることなくここまで成長してしまったのだろう。
ある意味それは総司に関わってきた人間全員に否応なく責任がある。


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