夢色花火(土沖/SSL)
「あれ、総司じゃん!!」
お参りを終えて参拝客の列から離れると、突如掛けられた自分を呼び止める声。
聞きなれたその声に総司がびくっと肩を跳ねさせ繋いでいる手を慌てて離そうとするが、土方が握る力を強くしてしまった為に解くことが叶わない。
そうこうしている間に声の主である藤堂がこちらに走ってきてしまった。
「土方先生と一緒だなんて珍しいな。二人とも学校じゃあんなに仲悪そうなのに意外と仲良かったんだ?」
「あ・・・その、これは・・・・・・。」
おそらく藤堂は純粋に何の含みもなく『仲が良い』という表現をしたのだろう。
だが総司は混乱しているせいでしどろもどろになりながら必死に取り繕う言葉を考えている。
それを見た土方はフォローするようにそれとなく話の矛先を別のところに向けた。
「平助、お前まさか一人で縁日に来たのか?」
「ん?違ぇよ、左之さんと一緒。」
「おい平助、勝手にいなくなるんじゃねぇよ・・・!!」
噂をすれば原田が人ごみを掻き分けながら血相を変えてやってくる。
「左之さんごめん!!総司の姿が見えたからつい・・・。」
「『つい』でいなくなられるこっちの身にもなってくれよ、って・・・土方さんに総司じゃねぇか。」
平助の前に立っている浴衣姿の土方と、その後ろで何故か凄くもじもじしている総司。
不思議に思って視線を別の場所に移してみれば、しっかりと繋がれている二人の手が自然と目に入る。
(なるほど、そういうことか・・・。)
土方と総司が付き合っているということは前から知っていたし、縁日や祭りと言ったらデートの定番中の定番。
つまりそういうことなのだろうと原田は瞬時に察した。
「平助、総司に会えたんだからもういいだろ。そろそろ行くぞ。」
「そろそろって、まだ会ったばっかじゃん。」
「出店に戻って色々食うんだろ?早くしねぇと混んじまってそれどころじゃなるぜ?」
「うぅ・・・わかったよ。そんじゃ総司、新学期にまた学校でな!!」
「う、うん。」
踵を返し原田に促されながら藤堂が出店の方に戻っていく。
二人の姿が見えなくなると総司は耐え切れなくなったように声を上げた。
「もう土方さん!!どうして手を離してくれなかったんです、もし平助にバレちゃったらどうするつもりだったんですか?!」
「バレたところで別に構いやしねぇだろうが。」
「僕は構います!!」
喚き散らす総司の手を引きながら神社の裏手まで歩いてきた土方。
小高い丘に面したそこはがらんとしていて、古びたベンチがぽつんと二つ無造作に置かれているだけだ。
そのうちの一つに二人で腰を下ろすと、土方は総司の身体を引き寄せそっと抱きしめた。
「なぁ総司、お前は俺達の関係が周りに知れちまうのが嫌なのか?」
「嫌、じゃないです・・・。ただ、怖い・・・・・・。」
お互いに好き合っているからこうして一緒にいる。
だがそれを周りの人間が受け入れてくれるかどうかはまた別の問題なのだ。
「土方さんのことは大好きです・・・心から、愛してます。」
「あぁ。」
「もっと・・・もっとずっと一緒にいたい、です。」
「あぁ。」
「土方さんは僕の大切な人ですって、姉さんにも、近藤さんにも、平助達にもちゃんと言いたいです。」
「あぁ。」
紡ぎ出される言葉にひたすら相槌を打つ土方。
しかし端的な受け答えに反するように抱きしめる腕の力が強さを増していき、震えを帯びる総司の身体をしっかりと包み込む。
総司もまた、土方の背中に腕を回し離れたくないと言わんばかりにひしと抱きついた。
「でも・・・もしかしたら皆は、僕達のこの関係を受け入れてくれないかもしれない・・・。」
「総司、もうその辺にしておけ。お前の言いたいことはよくわかったから。」
頬に手を当てて顔を上げさせる。
見えなかったので気付かなかったが、総司の瞳は今にも泣き出してしまいそうなほどに揺れていた。
真っ直ぐに総司の瞳を見ると、諭すように土方が言う。
「嫌われるかもしれないと不安になるお前の気持ちはわかる。でもな総司、何もしてねぇうちから結果ばかり悪い方向に考えて怯えるのはやめろ。確かに俺達は他人と違うことをしてるのかもしれねぇ、人の道からも外れてるのかもしれねぇ。だが俺はこうしてお前を好きになったことを一つも間違いだとは思わねぇし、そのせいで周りに何を言われようと気持ちを曲げるつもりは欠片もねぇ。ちっとばかし大げさかもしんねぇが、俺はお前さえ傍にいてくれんのなら、たとえこの世界の全員から嫌われても生きていける自信がある。なぁ総司・・・俺だけは何があっても絶対にお前のことを嫌いになったりしねぇから、いい加減そうやって拒絶に怯えながら生きるのはやめにしねぇか?」
「・・・本当に、何があっても僕の傍にいてくれますか?」
「あぁ、約束だ。」
土方の紫色の瞳と総司の翡翠の瞳が交錯する。
信念の籠ったその眼差しに漸く総司が表情を和らげた。
「・・・すぐには無理かもしれないですけど、少しずつでも変わっていけるように努力してみます。」
「それでいいんだ、焦る必要なんざどこにもねぇ。」
くしゃっと土方が総司の頭を撫でる。
すると突然夜空に光の華が咲き、辺りに大きな音が響き渡った。
「花火・・・?」
「そういや今日は隣町の花火大会だったな。ここからでも中々の絶景じゃねぇか。」
遮るものの無い場所から望む大輪の華の何と美しいことか。
しばしその絶景に見惚れていると、ふいに総司が土方にもたれ掛かり口を開く。
「ありがとうございます、土方さん。」
「急にどうした?」
「まだちゃんとお礼言ってなかったなぁと思いまして。色々ありましたけど、今日は凄く楽しかったです。」
「そうか。じゃあ来年もまた連れて来てやるよ、思わぬ花火の穴場も見つけたことだしな。」
「ふふ、そうですね。」
嬉しそうに総司が顔を綻ばせると、また一つ空に美しい光の華が咲いた。
― fin ―
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