君守る手、優しい温もり(土沖/幕末)
『一人で泣いてんじゃねぇ、ガキのくせに背伸びしようとするんじゃねぇよ。』
『っ、泣いてません・・・。』
『ならこれは何だ、寝汗とでも誤魔化すつもりか。』
『貴方には関係ないでしょ・・・!!捨てられたことのない、家族から大事にされて育ってきた貴方に、裏切られた僕の気持ちがわかってたまるか・・・!!』
『―――・・・あぁ、わからねぇ。だから理解してぇんじゃねぇか。悲しみも、苦しみも・・・張り裂けんばかりに痛む、その悔しさも・・・な。』
養っていけないから、家を存続させるのに精一杯だから・・・棄てられた。
無力な子供の自分にその運命は変えられなかった。
悔しい、苦しい、悲しい、寂しい・・・不の感情ばかりが身の内を駆け巡って、絶対に泣いてなんかやるものかと意固地になっていた自身を次第に追い詰めていく。
そんな想いが雫となって溢れ出したのが、試衛館に預けられてちょうど丸一年になる時だった。
部屋の片隅で小さくなりながら声を押し殺して泣いていると、運の悪いことに、その日近藤家に一晩泊めてもらっていた土方に見つかってしまった。
当時はまだ、互いに心を許し合うような間柄ですらなく、顔を合わせれば嫌味の飛ばし合いが当たり前で、なんて面倒な人に見つけられてしまったのかと己の不運を心底呪った。
しかも、笑われるかと思えば慰めの言葉を掛けられるし、こちらの気持ちなど考えもせず強引に胸の中へ抱き込まれたりもした。
同情なんて真っ平だと喚いても、彼は一向に解放してくれなくて。それどころか、涙が治まるまで優しく背中を撫でてくれ、不安に駆られる自分を腕に抱いたまま朝まで傍にいてくれたのだ。
それから毎年、決まって同じ日に、土方は傍らに寄り添って眠ってくれるようになった。
互いの想いが恋慕であると知ってからも、それは変わらなかった。
姉に棄てられた絶望感など疾うに薄れていた。
今はただ、土方に裏切られるのが恐い。
同じように不要だと告げられ、何処へなりと棄てられてしまうことが、敬愛して止まない近藤に嫌われるよりも遥かに恐ろしく感じるのだった。
臆病になっても仕方のない現実を、自分は今まさにこの身に抱えている。
故に、より一層不安は強まって、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。
「今夜だけはダメなんです・・・!!僕が・・・誰にも負けない、強い僕じゃいられなくなる、っ・・・!!」
こんな脆弱な己は誰にも見せられない・・・土方以外、誰にも・・・―――。
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