素直じゃない君が好き(土沖/現代)



*高校生土方さん×小学生総司
*総司:近藤家に預けられている子、土方さん:近藤さんの一学年後輩(幼馴染)


「どうしてこんなことするんです!!早く降ろして!!!」

「降ろしてやるわけねぇだろうが。いつもいつも悪さばっかしやがって、少しそこで反省していやがれ。」

「ちょっと・・・、土方さん!?」

「じゃあな、総司。」

「待って・・・!!待てってば・・・!!!」

呼び声に足を止めようとはせず、土方は総司を置き去りにして何処かへ去っていった。

子供の背丈では降りるに降りられない高さで一人ぼっち。
人気の無い場所柄、彼以外の人間に助けを求めることは叶わない。

否・・・元より助けを求めようなどとは思っていない。
負けを認めて理不尽な暴力に屈するなど、自分の存在全てが許さないのだから。

だから・・・『ごめんなさい』なんて、死んでも口にするものか―――。



近藤家に預けられている総司と、近藤の古い友人である土方は、出会ったその時より『犬猿の仲』と呼ぶに相応しい関係だった。

小学生の総司相手に高校生の土方が大人気なく突っかかるとか、そういうことではない。
大体は総司からちょっかいを出し、それに対して謝罪の一つも口にしない為、結果的に土方の堪忍袋の緒が切れて大喧嘩に発展してしまう。

素直に謝るような子供でないことは重々承知なのだが、悪いことをして反省も出来ないような大人に育ってほしくないという想いから、ついつい土方も、不毛なやり取りになるとわかっていて彼の相手をしてしまうのだった。

単純に嫌がらせをしたいだけではなく、憤慨する姿を見て楽しみたい総司にとって、真っ向から叱りつけるその姿勢はむしろ逆効果であり、改善されるどころか更に勢いは増すばかり。

いよいよ手に負えないと感じ始めた土方は、あるとっておきの方法を思いつき、たった今それを実行したのだった。

まずは、悪戯に引っ掛かったように見せかけて総司を捕獲。
一度捕らえてしまえば、子供の彼を逃がさないように押さえ込むなど朝飯前だ。

そしてそのまま人気の無い場所まで連れて行き、自力で降りるのが不可能な高台に上げてしまう。

一口に高台と言っても、あくまで子供が恐怖を感じる程度の高さ。
身体的に痛めつけることが本来の目的ではないので、そういう意味での危険度は限りなく低くする。

要は、彼が日頃の行いを悔い改めてくれさえすればそれでいいのだ。
それ以上のことなど別に望んでいない。故に、過剰に折檻する必要も無い。


このような真似をした自分を、総司はこれまで以上に嫌うだろう。
だが、本当の家族がいないからこそ、周囲の人間が「駄目なものは駄目だ」とはっきりわからせてやらなければならないのだ。

根っから優しい近藤にそれを望むのは無理だろうし、彼には絶対の拠り所で在り続けてほしい。
憎まれ、嫌われるのは、赤の他人である自分一人で十分。

理不尽な仕打ちの裏に籠められた想いに、彼が気付くかどうかは定かでないが、気付く気付かないは大した問題ではない。

いっそ、気付かないくらいでちょうど良いのだ―――。



足場に出来そうな物は無く、直に飛び降りるにも不安が残る。
八方塞のまま時間だけが無情に過ぎ、次第に周囲は薄暗くなっていった。

仕掛け人である土方の姿が目の前にあるのならば、弱味を見せられないと強がることも出来る。
しかし、今この場に居るのは自分ただ一人。

闇に染まりゆく世界と静寂が、幼い総司の心を耐え切れぬ孤独に追い落とし、意思と反して心細さを膨らませていく。

(負けたくない・・・・・・けど、怖いよ・・・。)

確かに加減は無いと思うが、あくまでも子供の可愛い悪戯ではないか。
真に受けてこんな酷い仕打ちをするなんて、高校生のくせに大人気ないにもほどがある。

(謝ったら・・・降ろしてくれるかな。)

『ごめんなさい』と一言口にすれば、何事も無かったように事を済ませるのだろう。
勝ち誇った顔で腹の立つ言葉を浴びせてくるかもしれない。

どちらにせよ、土方に屈するなんて屈辱以外の何者でもない。
やはり、謝罪の言葉など死んでも口にするものか。

折れかけた自尊心に再び火が灯り、涙を堪えようと懸命に歯を食いしばる。

耐えて耐えて耐え抜いて、必ず彼の鼻を明かしてやるのだ。


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