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▼ 御前試合と少女

 そういうもの、で済ましてしまうのは簡単だけれど、私はそれをとても美しいと思うのです。


 山々から登る太陽は生き物たちを起こすほんの一時だけその色を変える。深い夜の闇が円い焔によって昼間の青へと変わる。その時に現れる、炎のような赤でもない、海のような青でもない、柔らかで包み込むような薄黄が好きなのです。

 春の終わりに瑞々しく生えてきた青い葉が夏を経てすっかり濃く色を変える。まだまだ厳しさを残す日差しを受け止めて和らげてくれる。なんてことは無くすぐそこにある、もう直ぐ訪れる実りの季節を報せるような深緑が好きなのです。


 いつ好きになったかなんて覚えていません。だって彼ほど素敵な人を好きにならない理由はありますか?


 後ろに目があるのかと言うぐらいに素早く気づき、どこから攻撃が飛んできても咄嗟に避けて反撃してしまう。狩りに出かけたとなれば、ほとんど毎度獲物を担いで帰ってくる。しかもその獲物は兎やうり坊などではなく、皆で分け合える鹿や熊など。しかしその力強さに驕ることはなく、採集の手伝いをお願いすれば1番大きな籠を背負って一緒に来てくれる。

 村の女の子、いいえ、男も含めた全員から好かれている…と思うのは贔屓目でしょうか?しかしそうも思ってしまうぐらいには格好いいのです。


 彼の背が高くて、つまりは足も長い事を理由にして手を繋いで貰う。こちらを気遣ってゆっくりと歩いてくれる事が、すっぽ抜けないようにしっかりと握ってくれる大きくて硬い手が大好きなのです。


「なら『出場しないで』って素直に言えばいいじゃない」

 バッカじゃないの、と鼻を鳴らす彼女は短い眉を潜めている。美人さんが台無しだ。でもこうやって相談とも言えない感情の整理に付き合ってくれる。そこが彼女の優しさだ。しかし素直に頷くことは出来なくて、首を横に振る。

「迷惑はかけられないから」
「あんたねぇ…今回の大会の優勝候補なのよ!?」


 私たちの巫女様は美しく溌剌としていて大変魅力的な方。その上巫女様の伴侶は長の座を手に出来る。それを知っていながら『出ないで』と言うなんて、自分は巫女様との結婚以上の価値があると思わなきゃ言えないのです。そう、自信がなかったのです。



 …だから、でしょうか?

「優勝者!!コクヨウ」

 倒れ伏す彼の姿を見て、胸を撫で下ろしてしまったのです。美しい髪の色が土で汚れるのを、美しい瞳が瞼に阻まれて見えないのも、初めて良かったと思ってしまいました。


 誰にも言えることは無い、私だけの秘密です。





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