ワンピ短編 | ナノ
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▼ 待つ女達

 彼女はその女が嫌いだった。

 理由?そんなものは自分の男の傍に他の女がいる、というだけで充分に不快だからに決まっている。それだけで充分だ。自身を最も愛する男に抗議しても聞いては貰えず、他の男達相手では尚更だった。海の上という閉鎖空間では男達は皆彼女だけを愛したし、陸へ降りても本命であるという自信があった。それなのに割って入ってくるなんて冗談じゃない。彼女はリブが嫌いだった。

 彼女は常に複数の男を愛し、愛されている。しかし恋人たちがいなければ生きては行けない。だから彼女の恐怖は彼らが他の女に現を抜かすこと。彼らに愛されるためなら彼らの望むとおりに姿を変え、必要ならば傷つき、何もかもを受け止めた。しかし彼女は彼らの先陣を切って戦いに出ることは出来ない。陸の女のような柔らかい身体は持たない。常に後ろに隠れて守られていなければならないし、固く大きな身体しか持たない。だから常に先行して敵陣を把握するリブが嫌いだった。恋人の1人の最愛を攫って行った女が嫌いだった。

 しかしリブがいなくて気づくこともある。大雑把な男所帯の中で、率先してブラシをかけ帆のほつれを直しフジツボを取り、ちょっとした戦利品で食料庫や宝物庫の寂しさを埋め、あまりに男臭くなりがちな彼らの清潔を保っていたのは誰だったのかと。そう思えば許してやってもいい気にならなくもない。しかしそれはそれとして逆にひとり残られても何も嬉しくない。

『ねぇ、次の航海はいつな訳?』
『キッドはいつ帰ってくるのよ』
『キラーは?ヒートは?ワイヤーは?みんないつ帰ってくるのよ』
『答えなさいよブス』

 暗い闇の中で、彼女は極彩色の体を極力目立たせないようにひっそりと休ませていた。一緒にいるのはリブ一人。彼女の声にリブは答えない。聞こえていないのだから当然だ。甲板で休憩を取っていたリブは立ち上がり、今夜もまた船を出ていく。

「…行ってきます」

 気まぐれに呟かれた言葉は彼女を認知しての言葉ではない。彼女の名前はヴィクトリアパンク。《ウィクトーリア-勝利の女神》にして海賊に微笑む《パンク-不良》。彼女がキャプテンの為に勝利を呼び込み、彼の手自身が掴み取るのだ。しかしその為には人手が足りない。頭が足りない。だから彼女らは、男達の帰りを待っていた。



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