▼ 日記より:夫のツボが分からない
※性行為を匂わせる表現あります※
「……ぅん、んぐッ………!!ぅ!んんーーーーーー!!!!」
限界だ。そう伝える為にパイチェは目の前の肩を叩く。最初は軽く叩いていた。だが止む気配がないのでそこそこの力を込めて叩く。するとやっと舌を引いてくれた。
最後にべろり、と、口腔内に溜まった唾液を掬い取るような動きをして、その長く大きな舌は去っていった。血色の良いその舌はいつにも増しててらてらと濡れている。
「ハァ…ハァ……!!カッ…!!…ふぁ…」
「くくく……」
「…ハ……あのね、こっちは本気で苦しくて笑い事じゃ無いのだけれど」
パイチェがキッとペロスペローを睨むが、男の方は全く気にする様子はない。
ぺロスペローの舌は彼の頭2つ分あるのではという程長い。そして口の横幅以上あるのではという程に幅広だ。それの全てをパイチェの口に無遠慮にねじ込めば咽頭の奥まで塞がる。人体に挿れるには無理のあるサイズなのだ。あまりの圧迫感と窒息状態に死の危機感さえ覚える。実際軽い酸欠になったし、首を絞められているにも近い。
男は抗議の声を誤魔化すように、まだ戯れ足りないと額へ頬へと唇を落としてくる。腰に回った手もそのままだ。それを女が黙って受けていると至近距離の顔が悪戯な笑みを浮かべていた。
「ならば君から愛でていただきたいのだが、如何かね?ペロリン♪」
「…私から?」
「ああ」
ぺロスペローとパイチェの営みは基本的に彼女の受け身である。男が望むならと身体を差し出し、女からの行動を望まれればそれに応える。情事でのそれなら何度かした事があるが、口付けに於いてはほとんど経験が無い。
「…下手だったら教えてよね」
パイチェは拒まなかった。異物挿入にも近いキスよりも自分からした方がマシという考えもある。
ほっそりとした男の頬に手を添えて、上唇と上唇をゆっくりと合わせる。唇は合わせたまま己のとは違う暗い色の口紅に舌を這わす。口紅の味が濃いから剥がして閉まったかもしれない。流れで侵入させた舌で白い歯列を歯茎を、凹凸を確かめるようになぞる。相変わらず歯並びが良い。
「ん」
「…ハッ…」
唇を離して息継ぎをする。色の篭った吐息だったので悪くは無いのだろう。今度は唇は合わせなかった。代わりに長く伸びる肉厚なそれの裏に舌先を押し付け、側面を口全体で食む。軽く圧を掛けながらスライドさせてゆく。
「!!…っ……っ…」
表情を薄目で確認する限り、反応は悪くない。付け根から先へと、時にまた付け根に戻り、先端に辿り着くかと思えば今度は反対の側面を咥える。口の端同士を合わせながら舌裏の静脈を確かめるように舐める。
添えられていた男の手に力が入り、女の薄くついた肉と皮が形を変えた。
充分すぎるほどその長さを味わうと、1つしっかりと息継ぎ挟み、ざらつきのある舌先と舌先を絡み合わせる。ピクニックキスから、そのまま無理なく向かい入れられるだけの長さを招き、口を窄めて吸い込む。吸い、つるりとした裏を舐め上げ、舌先を絡ませる。
これぐらいでいいかとパイチェが顔を離す。口が疲れた。呼吸を整えて目の前の男を見ると、予想外の表情を浮かべていた。とろりと落ち気味の瞼に据わった瞳、いつもより血色のいい肌、軽く上気した息。…例えば、戦闘で不完全燃焼だった時のような、とてつもなく美味しいお菓子を食べた余韻を引きずっている時のような。
え……なぜ?
そのような表情を浮かべられる理由の分からないパイチェを他所に、ぺロスペローは彼女の身体を抱えベッドに横たえる。
…別に致すのは構わないので夫のしたいようにさせることにした。
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