▼ いつもはお菓子を配るだけ
※名前変換なし
※婚約者ヒロイン(ただし要素薄め)
※まだ未来の見えないカタクリさん
ホールケーキ城内、廊下にて
「「「「といっかといーと!!!!!!」」」」
「ああ、ハッピーハロウィン」
まだ自分の膝の高さの身長もない弟妹がわらわらと抱きついてはお菓子をねだっていく。兄弟がなまじ多いと今日のような日は少し大変だ。何時何処でお菓子をねだられるか分からないから、常に余裕のある量を持っていなければならない。弟妹達の中にはお菓子は勿論悪戯をしたがるのもいる。
…今日ばかりはぺロス兄やクラッカーが羨ましい。
「「「「「とりっこわとりーと!!!!!!」」」」」
「お前ら何回目だ!!!!?勘弁してくれ!」
「じゃあイタズラだーー!!」
「どうする?」
「かみのけにリボンつけちゃおうよ!」
「っっ…!!!待て!!!今作るから!!」
「「「「「早く♪早く♪」」」」」
カタクリの視界の端に、クラッカーが体によじ登られながらお菓子を強請られているのが見えた。既に何度も襲撃を受けているらしい。うんざりした表情で妹を床に下ろしながら、手を叩いてビスケットを生み出している。
前言撤回。お菓子系の能力持ちでも今日の大変さは変わらないらしい。来年からは突撃回数を制限するようママに進言する必要がありそうだ。
手元のお菓子が心許なくなってきたカタクリは自室に取りに戻るべく踵を返した。クラッカーは明日は「手が痛てぇ」とよくぼやくのだろうな、と考えながら足を進める。すると進行方向から複数人の気配がした。
まずい。
ここは1度隠れるべきかと考えるが、集中してみると人数を探ってみるとどうやら今日のおれはついているらしい。
ダダダダダダダと盛大な足音と共に現れる弟妹、その数は丁度手元に残っているお菓子の数と同じだ。そして自室は目と鼻の先。
「「「「「「お兄ちゃん、トリックオアトリート!」」」」」」
「ハッピーハロウィン。ちゃんと夕飯も食べるんだぞ」
ちぇー今年こそ悪戯できると思ったのに、などという声も聞こえるので、残念だったな、と小突いてやる。地味にその悪戯で痛い目を見ている他の兄妹を見ていて警戒しないはずはないのだ。
間一髪でその場を切り抜けたカタクリは自室のドアを開けた。否、内側から開かれた。
「ハッピーハロウィン、カタクリさん。Trick or Treat?」
「…すぐそこにある。取らせてくれ」
「Trick or Treat?」
「…Trickだ」
ほぼ真下の笑顔は「今」お菓子を差し出すか悪戯されるかの2択を強いてくる。お菓子が切れた今悪戯を甘んじて受けるしかない。
そうだ、今年からは兄妹の他にもう1人気をつけねばならないのを失念していた。カタクリの部屋で待ち伏せしていたこの娘は気配を消すのだけは抜群に上手い。普段ならちゃんと特に気をつけていたはずなのに、自分もお祭り気分に感化されたのか。
しゃがんで下さい、という言葉通りにしてやればやっと顔と顔の高さが揃う。すると首元に腕が伸ばされて抱きつかれた。そして口に感じる慣れたファーの感覚と何か柔らかいもの。
「これが悪戯か?」
「ええ、だってカタクリさんはいっつもキスする時に私の顔を隠すんだもの」
悪戯というには些細な行動に思わず訊ねると、えへへと照れたように笑われてしまった。どうやらファー越しのキスでも満足らしい。
「Trick or Treat」
「はい、ハッピーハロウィン」
「…小さくないか?」
「足りなければ後で部屋に来てください。大袋の用意してるから」
ならばと思い同じ問を返してみれば、一口サイズというにも可愛らしいサイズのドーナツを渡されてしまった。流石に抜かりはないか。
部屋に入りながら「食べてみてよ」「後で食う」「今日ぐらい一緒にお茶できると思ってたのに」なんてやり取りをする。気を抜きったその背中にふと悪戯心が湧いたカタクリはその肩を指で叩いた。
「なんです…………」
振り向いた顔を手で覆ってやり今度は直接口付けた。カタクリがすぐに口も手も離し首元のファーを整えながら下を見ると真っ赤になってわなわなと震えている。
「ちゃ、ちゃんとお菓子は上げましたよね!?」
「悪戯なつもりは無いからな、いつしても自由だろ」
「ーーー!!!」
自分からするのとされるのではそんなに違うのだろうか、些か大げさにも見える反応が面白い。
「悪かったよ、ほらお詫びにやろう」
すぐそこにあったお菓子を渡してやれば相変わらず赤い表情のまま受け取る。偶には自分が楽しむ側のハロウィンもいいかもしれない。
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