▼ 海図は無くても生きていけます
クラッカーの意識が浮上して、まず最初にした行動は起き上がるでも目を開くでもなく、自分の現状について整理する事だった。
自分はママへ献上されるお菓子の輸送船に乗っていた。途中までは順調な航海だったが船は想定外の嵐に見舞われ……情けない事にも海に落ち今、何処とも分からぬこの場所にいる。
揺れを感じないから陸だ。しかし甘い匂いがしないから万国ではない。風の吹く感覚もないから室内。感覚からして今おれが横たわっているのはソファだろう。人の気配は1人、順当に考えてここの住人だろう。まとめると、見知らぬ何処かの土地に流れ着き、どこぞの物好きがおれを拾ってきたといったところか。
他に人の気配も感じず住人も手練のようには感じなかった為、目を開き体を起こす。住居かと思えば小さなカフェのようだった。店内を見渡せば壁にプレッツェルが立て掛けてあるのも見えた。
「おはようございます。気分はどうですか?」
どうぞ、とカウンターの向こう側からやって来たタッセはクラッカーに蒸しタオルを渡し、向かいのソファへと座った。タオルを受け取り塩まみれの身体を軽く拭く。
「ここはなんて島だ?」
島の名前を聞いても聞き覚えがなく、近隣の島の名前を聞いてやっとどの辺か思い当たった。万国からも乗っていた船の航路からもだいぶ離れた島だ。
「海図を見せてみろ」
「持ってないです」
曰くこの島からほぼ出ない為、海図は必要としていないとの事。クラッカーはじっと目の前の顔を見るが嘘を付いている様子はない。
「ハァ……ならいい。電伝虫はあるな?使うから持って来い」
「分かりました」
ぱたぱたと小走りで取りに行くタッセを見ながらクラッカーは面倒な事になったともう一つ溜息を吐いた。
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