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▼ 海賊は我慢しない

「お疲れ様でした」
「「お疲れ様です」」

日もとっぷりと暮れ、空が藍に染まる頃。店の裏口を施錠し、従業員3人が文字通りの感情をたっぷりと込めて別れを告げる。予想だにしないハプニング、茶葉店に赤ん坊が捨てられるという事態は、いくらか冷静になった母親が迎えに来る事で収束した。

「クラッカーさんもお疲れ様でした」
「…ああ」

視線は少し外れているし、笑い方も若干ぎこちない。

不快と言えば不快だった。なんでそんな半端な顔を向けられなくてはならないのか。

昨日おどついた少女に言われた事を思い出す。お人好しではなかったらしいこいつが、そうとしか見えないような態度を取っているのはおれのせい、だった。そして今も尚客観的に見て面倒な男を受け入れようとしている…ように見える。恐怖に飲まれそうな危うい均衡に揺れてはいるが。

別に敢えて言う必要も無い。別に踏み込む必要なんてない。タッセとの関係がどうであろうと、予定通りなら後3日で万国に帰るのだ。

…それでもクラッカーはタッセとのこれまでの関係を欲した。馬鹿舌でも許せる位には至福のおやつの時間を一緒に過ごせる関係。

「おれが怖いか」

長々と頭の中で考えていたら言葉が勝手に出ていた。しかし丁度いいとさえ思った。クラッカーは海賊である。欲しいものを我慢するのは性に合わない。



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