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▼ 今はまだ手のひら一つ分

特に理由と言う理由もなかった、筈だ。

ただ今日の午後のお茶で何も話さなかっただけ。騒がしい訳でもない、会話を振ればきちんと応える、そういう奴が今日は何も話さなかっただけ。何となく心に蟠る物があり、それから1人で剣を振りビスケット兵と取り組みをし汗は流せどその疼く物は無くならなかった、それだけ。偶然夜中に喉が乾いて部屋を出ると半開きのドアが目に入った。ただそれだけだった。

ドアをゆっくりと開き、明かりの消えた小さな部屋の中に入る。数歩足を動かせばもうベッドの枕元。特に魘された様子もなく眠る彼女をクラッカーは意外に思うと同時に何故か少し腹が立った。

タッセは気づいていないようだが、外の海の価値に於いてこの島で一番の富を持つのは彼女だ。彼女が気軽に仕入れて気軽に売る茶は島によっては貴族にしか許されないものだ。砂糖も、しかもこれだけ純度の高い物は同じくかなり高価で取引される。極めつけは彼女の所有するハーブの数々、手に入れられる環境の限られた高級薬品であるハーブを多種多様かつ多量に所持している。言い換えるならば緑色の金の山の持ち主だ。

もしクラッカーが居らず、あの海賊が野放しになっていたなら、彼女は財を根刮ぎ奪われ殺されるか、物を運び終わるまでは生かされその後犯され売られるのが関の山だっただろう。

…本当に危機感のない女だ。恐怖で寝れもせずに震えて入ればまだ……、まだ?まだ何だと言うのか。

まるで液体を素手で掬おうとするようだ。こうして同じ屋根の下に過すのは許す癖に己を恐れて、その全てを手に入れることは出来ない。

目元を隠す髪を気まぐれに払ってやる。眠り続けるタッセの顔をまじまじと見て、割と整っていると言って良い顔立ちをしている事に気がついた。あまり女を意識させる仕草をしなかった為に意識しなかったが悪くない外見をしている。ママと懇意の有力者でもない。ただの小娘。そもそも堅気でない男を同じ屋根の下に泊めておいてそんなつもりはなかった、などとぬかすならば間抜けに他ならない。

顔の横に腕をついてベッドに体重をかける。そして顔を近づけてーーー



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