産まれなかった事にされた子 | ナノ
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▼ 産まれなかった事にされた子

 おれの後輩の話をする。

 おれには自慢の後輩がいる。そいつは新世界に入ってから、つまり割と最近、おれと同じように頭目に惚れて我らがファイアタンク海賊団に入ってきた奴だ。名前はラッシー、みんなラスって呼んでる。

 ラスは足長族のハーフで、でも普通の足長族みたいに胴体ぐらいの長さの太ももがあって、ひょろっとしててちょっと女っぽい。ついでに顔もちょっと女っぽくて、そこそこおっさんの癖にイケメンって奴で、なのに女っ気が無くて時々むかつく。でもよくおれにパスしてくれるから許す。

 ラスは新世界の小せぇ島の小せぇ工房で武器を作ってた。銃火器は勿論、隠しナイフやワイヤートラップとか。あいつには膝よりちょっと下から脚がない。だから義足っての付けてるんだけど、それがまた散弾銃になっててくそかっけぇの。いい職人仕事するし、新米の割にめっちゃ強くなりやがったし、頭目に信頼されてて、正直もうおれより上に大出世。

 あんまり喋んなくて、愛想ないっつーかあんまり表情変わんねーけど、甘い物食ってる時はたまに笑う。ガキみてーに無邪気に笑う。肉、酒、煙草よりもお菓子、ジュース、コーラシガレット。大の甘党で時々頭目に呆れられる。そんな所はおれより年上なのにガキっぽい。


 そんなおれの後輩が最近なんか変だ。


 まずうちの殆ど全員被ってるボルサリーノ帽をやめてトルパー?ってぬくそうな帽子付け始めて、前からしてたゴーグルもなんかごつくなった。別にこれは似合ってるしいいんだけどさ、最近ラスが笑ったところ見てねぇ。


「なーーーそれ美味ぇの?」
「当たり前だろ」

 美味そうに食わないから聞いたってのにこいつは。

 向かいに座ってケーキを頬張る奴は真顔。ファイアタンク海賊団がビッグ・マム海賊団の傘下になり、頭目とおかみさんが結婚して、このホールケーキアイランドにアジトを構えて数ヶ月。こいつにゃ楽園の様なお菓子の国だってのに。……あれ、女将さん…、あれ…?

「…お前さ、女将さんの事なんて呼んでる?」
「…………どうとも、適当に」

 やばいやばいやばい。気づいてしまった。こいつ、女将さんの事を『女将さん』って呼んだ事がねぇ。なんか、こう、『頭目の嫁』って感じの言葉で呼んだ事がねぇ。もしかして、まさか…!!気づいた時にはテーブルに乗り上げて、つか立って肩を掴んでいた。

「いいかーラスーーよく聞けーー!!…確かにおかみさんの作るお菓子は絶品だ、甘党じゃなかったおれも大好きだ、特にケーキは最高だ。だけどな、おかみさんはあのビッグ・マムの娘で!あんまり親子仲は良かねぇらしいけど!!それでも浮ついた話なんてチラついたら頭目の立場がねぇ!!!それに正直美人じゃねぇしラスならもっと「何言ってんのあんた」
「ああ、何言ってんだ」

 必死になって後輩を止めようと説得していたら、その後輩からはすげぇ冷めた目で見られたし、気づいたら後ろにいた頭目すげぇ怖い。今日は俺の命日かな。




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