▼ 報告:備品切れ、ハンドクリーム
ふしゅっ
間の抜けた空気音が鳴る。ペロスペローは手の中に飛び出た多量のハンドクリームを微妙な目で見つめた。自分の手に丹念に塗り込むにしても流石に多い。
「…パイチェ、こっちへ来てくれ」
「?どうしたの…?」
「手を」
「…ああ、頂くわ」
差し出された手に恭しく、しかし余計な場所に触れないように気を遣いながら、手のひらで温めたそれを女の肌に移す。そしてそのまま塗り込んでいく。
白魚の手、とは言えないが手入れの行き届いた手だ。ペロスペロー自身も手入れはしっかりしているつもりではあるが、やはり彼女の手は性差もあり小さく自分のそれより柔らかくしっとりとしている。骨ばった指で繊細に整えられた爪先から皮膚の薄い指と指の間までに塗り込んでいくが、皺やひび割れの類は見えない。個人的にも好ましい類の美しい手だ。そこまで考えて、目的と手段が逆転しているなと自覚しえ手を離す。
「………」
パイチェはそのままペロスペローの前に立ったまま自分の手を見つめている。この手の触れ合いは苦手では無かった筈だが何か気に障ったのだろうか。ペロスペローが訝しんでいると、ぽつりと独り言のような答えが帰ってきた。
「貴方も細い細いと思っていたけれど、ちゃんと男の手をしているのね」
らしくなく心臓が跳ねた。この程度の言葉で過剰反応するなんて思春期のガキでもあるまいし。自分が弟達と比べて華奢な方に入る事は自覚しているから彼女もそこと比べて言ったのだろう。どうせ彼女の事だ。他意は無い。夫婦なのだから他意があっても良いとは思うが、これの場合それは無い。そういう女だ。
「ペロス?ペロスペロー?」
先程まで握っていた手を顔の前で振られる。普段自分からするものと同じ匂いがする。怪訝な顔をしている辺り、やはり自覚なんてないのだろう。ペロリン♪、といつもの口癖で誤魔化した。
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