▼ 冬に人気の私のパパ
シャーロット・夢主は叫ぶ。
「寒い!!!!!!」
薙刀を振るう。白刃が煌めき血飛沫が舞った。柄で突く。吹き飛んだ衝撃で家が壊れた。拳を叩きつける。骨が砕け肉が飛んだ。薄く積もる雪に血染のマーブル模様がか描かれて死体と瓦礫の山をデコレーションする。そこ上にマジパンのように1人の女だけが立っていた。
「ああ寒いったらない!!アップルパイかホットケーキはない!!??あったかホクホクスイーツがなければこんな寒さやってられないわよ!!」
自然に対して怒りを向ける少女の吐く息は白い。先程まで作り出していた地獄絵図も彼女にとっては体を動かして暖を取る程度の運動なのだろう。ママ、彼女の祖母から命じられた仕事で半端な事をするつもりは無いが、不必要に暴れたのも否めなかった。
コートを翻して手袋をはめた手に息を吹きかける。赤く染まる頬の上、眉は厳しく内側へ寄っている。
「パパのアツアツ料理が食べたい……」
ぼそりと呟いた言葉こそ彼女の本音だった。そう、本当に腹を立てていたのは寒さにでは無い。しばらく父に会えていないからだ。欲しいのはどんなに甘くて暖かいスイーツでもなく、ちょっぴり男くさいぐらいの父の温もり。
夢主も駄々を捏ねるほど幼くは無い。いや、むしろ下手に正面切って言えないからこそフラストレーションが溜まる。
私のパパ。大きくて暖かくて優しい私の大好きなパパ。ヤキガシ島を治める皆の大臣。
寒くていけない、と夢主は船へと戻る。仕事も終えたし、父に会えなくとも早く帰りたかった。
「夢主!!おかえり!!」
遠征からヤキガシ島へと船が帰港する。報告書を出す部下と上司としてぐらいの時間なら一緒に居られるだろうか…などと考えながら船室を出る。そして桟橋に目を向けて、それを見開いた。目が覚めるような太陽色が目に入る。空気が暖かくなった気さえする…いや、パパの能力もあり本当に暖かいのかもしれない。気がつけば船の甲板から飛び降りていた。
「パパ!?」
「どうした?遠征上手く行かなかったのか?」
「そうじゃないけど…忙しいからお迎えは無いと思ってたから…」
「娘の迎えぐらいの時間は取れるさ!!」
低く朗らかな声に出航前の苛立ちはどこへやらと溶けていってしまったらしい。目の前の巨体に抱きついて温もりを堪能する。力の入っていない筋肉はカステラのように柔らかい。張り切っていた見栄も飲み込まれてしまった。
「パパ…手繋いでもいい?」
「おう!」
夢主の手はその大きな手の中にすっぽり包まれてしまう。手から伝わる熱が全身を温めていった。
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