待ち人は帝都にいる | ナノ
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▼ 手紙

帝国軍 南東方面軍 第五駐屯地

 第二〇三航空魔導大隊は先日編成を完了したばかりだった。言い換えるならば、やっと練成期間が終わり若干の余裕が出て来た頃だ。第三中隊中隊長に就任したヴィリバルト・ケーニッヒも例外ではない。やっと時間が出来たと士官食堂で手紙を書いていた。

 先日受け取った私信を読み返しながら、どのような返しをしようかとペンを遊ばせる。すると斜め向かいから声をかけられる。声の主はグランツだ。


「ケーニッヒ中尉ってよく手紙を書かれていますよねぇ…?もしかして恋人宛だったりします?」

 軍人の癖として早食いの傾向がある。例に漏れずグランツも手早く食事を済ましてこいつも暇を持て余しているのだろう。食器は片付けられ、共用のピッチャーとグラスだけが彼の前にあった。

 新任将校だが、小生意気にも中隊長を揶揄うつもりであるらしい。


「ああ、そうだが?」
「へ…!?冗談のつもりで聞いたんスけど……マジですか……?」

 事も無げにケーニッヒが肯定する。と、グランツが声を裏返して驚いた。そんなに意外な事か?とケーニッヒは短い眉の片方を上げて怪訝な顔をした。


 「だからお前ナンパに失敗してもけろりとしてたのか!お前の性格なら多少なりとも凹みそうなものなのに!」
「放っておけ」

 どこから聞き耳を立てていたか、ノイマンがケーニッヒの向かいに座り混ざってくる。え、ナンパなんてしてたんスか、と言うグランツの言葉は聞き流す。ノーコメントだ。

 全く、誰も彼も暇なのか。それともこの女性比率の圧倒的低さにより、この手の話に飢えているのか。この場に女性隊員2人がいないことを確認した上で話しているんだよな?と同僚を少し引いた目で見てしまう。


「文通なんてマメな事するなんて意外ですね……なんというか似合わな……いえいえ!!そ、そう!中尉ならサプライズとかそっちに力を入れそうなイメージでして…!」

  普段は完全にからかわれる側の為、グランツはここぞとばかりに軽口を叩く。軽口と本音が若干後者に傾いていた気がしないでもない。まぁひと睨みされては撤回してしまうのはご愛敬と言った所か。

 ハァ、と息を吐き「いいか?」と前置きを一つ。

「美人で料理上手。手紙の返信何度か忘れても全く気にしない位には寛容。数ヶ月ぶり半年ぶりでも、帰ってみれば満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる。加えて、虫を払ってくれるガード付き。ーーーこんな理想的とさえ言える女性待たせておいて、他の女性を本気で口説く?その場のノリ以上では出来そうにありませんね」

 自信に満ちた声で言い切った。口の端に笑みを浮かべ、手紙にペンを走らせ始める。

 グランツは突然の強烈な惚気に赤面して固まってしまった。ノイマンもこれ以上は聞くのを辞めたとばかりに、ピッチャーから水をついで注いで口にする。本来なら度数のきつい酒で流したい甘さだった。

「ちゃんと女性を口説けていれば様になる台詞だってのに、惜しいよなぁ」
「ノーイマン……放っておけ」
「はいはい」



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