▼ 出会い
始まりは宿舎に届いた1通の私信であった。
差出人はエリヤス・ラウ。ケーニッヒの士官学校からの友人である。
ケーニッヒがこの中央に短期滞在し始めたのがつい先日だというのにこの男は相変わらず耳が早い。しかしまぁ元からと言えば元からなので今更さして気にもせず封を切った。そこにあったのは言葉足らずな程に簡潔で一方的で、心做しか草臥れた文字だった。
場所は帝都ベルンの中心部から少しだけ離れたある公園、時間はもう正午になろうという頃。ケーニッヒは辺りを見回すがみてもあのお綺麗なお顔は見当たらない。手紙を見直して時間も場所も間違っていない事を確認する。一方的にただ時間と場所を指定して、目的も伝えずただ来いと言っておいて本人が遅刻?まさか優秀な軍人たる奴が時間守らないとも思えない。
急な仕事でも入ったのか...?
そういえば仕事中の廊下ですれ違う事があったが、肌が雪のように蒼白だったので珍しくも厄介な仕事を回避出来ていないのかもしれない。
公園の中央に置かれた時計の針が真上で重なる。それを見て同封されていたもう1通の手紙の存在を思い出した。『封緘・当日正午に開封されたし』と殴り書かれた手紙の端を雑に破る。何を考えてやがんだか、という言葉は心の中に押しとどめる事にした。奴の思考なんて考えるだけ時間の無駄である。
一応は封緘書簡と言えなくもない物の内容を要約すれば、『この公園にラウの妹がいるから自分の代わりにお前が一緒に買い物に行け。感謝しろ』との事。
これだからこの友人の思考にはついていけないのだ。打算に打算を加えた最小限の労力で事を成しコネクションを作る為に凡そ万人に好かれる人間を演じられる癖に、妹が絡むと途端に優先事項が打って変わり知能もただ下がりする。そこが愉快でないと言えば嘘になるが程々にして欲しい。
いつもならラウの奇行に付き合ってはいられないと踵を返す所だが、今回は奴の妹も巻き込まれている。一女性をいつまでも待たせておく理由には行かないと、それらしい女性を探し始めた。
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