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鍵盤と兄と彼と7

とうとう迎えた当日。

チケットは完売したらしく、マネージャーは上機嫌。
ホールは先程開場し開演まで1時間ほどあるにもかかわらず、客席を疎らに埋めている様子が楽屋のモニターから確認できる。

温度、湿度は共に指定した数字を示している。
着替えて化粧もして音出しまでの間画面を見つめているとコンコン、と扉がノックされた。

「どうぞー」

返事の後開いたとびらの向こうに立っていたのは

「零くん!」

「美織、調子はどうだ?」

「まぁまぁ、いつも通りだよ。
にしても1人って珍しいね。いつもならヒロ兄ちゃんとかもいるのに」

「めちゃくちゃ早めに一人で来たからな」

「ふーん?」

確かに早い。
なんなら、普段は私の集中を削がないためか公演終わりに楽屋へ来ることがほとんどで、公演前に来るのは恐らく初めてのワンマン以来だと思う。

「まぁいいや。
っていうか一人? 先に来るのヒロ兄ちゃんに却下されてたよね」

「本気出して撒いたからな」

「こんなところで本気出さないでよ……」

「本気を出したのはまぁ……風見だけど」

「なんでそんなみんな風見さんに負担掛けるの!?
胃に穴空いちゃうよ!?」

「風見の事は置いておくとして」

「置かないで?
風見さん不憫すぎるからね?」

「公演後だと邪魔が多いからな」

「邪魔……?」

「いや、なんでもない。調子は?」

「これでも一応プロだからね。バッチリ仕上げてるよ」

「なら良かった。ご飯は?」

「おにぎり一個食べたよ」

「足りるのか? 美織が?」

「ひど! まぁ休憩中にでも追加するよ……
今マネージャーもバッタバタで買いに行ってくれなさそうだし……」

あはは〜と笑って零くんを見る。
本当は全然足りないのだけれど、朝イチから食事より最後の追い込みに時間を使ったせいで割と結構空腹。
朝用に買っておいたおにぎり一個じゃ足しにもならない。
やらかしたな〜、とは思っているし、マネージャーは忙しいから買っとけよ! なんて我儘も言える訳もなく。
数ある差し入れはその殆どがお菓子類、あと普通にどこの誰から、みたいな仕分けも出来てないから手をつけることが出来ない。
万が一があったらいけないし、逆にお礼とかをするにしてもどれを貰ったかを把握しておかないといけない。
それくらいの警戒心とモラルを持たざるを得ない状態で結局、自分自身で用意したものか、マネージャーが用意したもの以外は口にするなと言われた。

「全く……持ってきて正解だったな」

そう言って出されたのはお弁当箱に入れられたサンドイッチだ。

「え! もしかして零くんの手作り!?」

ポアロの人気メニュー(勝手にレシピ変えるのはいいのか?)の『安室透』特製のハムとレタスのサンドイッチと、零くんがたまに作ってくれる絶品のたまごサンド。

「俺以外に誰が?」

「いや、ワンチャンヒロ兄ちゃんとか」

「それならヒロが自分で持ってくるさ。
絶っっっ対俺には譲らない」

「そうかなー……」

「風見やヒロのことはいいから、今のうちに食べておけ!
せっかく作ったんだから」

「はいはい! ありがとう〜!
えーやっぱりたまごサンドかな……んま!」

口いっぱいにたまごサンドを頬張って、顔をほころばせる零くんの顔はその時サンドイッチに夢中で全く見てなかった。


「それじゃあ、俺はそろそろ席に行くよ」

「うん! ちゃーんとヒロ兄ちゃんとか松田さん達と連番だからね!」

「ありがとう。バレないようにしないとな」

「え?」

「"安室透達"の知り合いも来てるみたいでな」

「あちゃー……なら離した方が良かった?
そう言うってことは松田さん達とも知り合いなんでしょ……ってそれってどんな人……?」

安室透達の知り合いで、松田さん達警察関係者とも知人。
そして、降谷零の正体がバレるわけにはいかない人物。
マネージャーがなーんか言ってた気がすんだよなー……

「鈴木財閥のご令嬢、鈴木園子さんですよ」

「……急に『安室透』やめてよ」

「悪い悪い」

「マズったなー……そういやマネージャーがチラッと鈴木財閥がどうとか言ってた気がするんだよね〜……」

「とは言っても安室透と鈴木財閥のご令嬢が知り合いとは知らなかっただろ?」

そう言われて思わず出かけた声を喉奥に押しとどめた。
怪訝そうな零くんはまさかまた何か……と呟き、私は確かに……と思った。
そんな事わざわざ聞いてないし、まさかあの鈴木財閥のご令嬢が自称探偵と知り合い─────誤魔化すわ。

「だーって安室透は毛利小五郎に弟子入りしたんでしょ?
鈴木財閥のご令嬢と毛利小五郎の娘さんは友達だって言うじゃない。
それなら知っててもおかしくないでしょ?」

「それはまぁたしかにな……」

「ね! べっつに何も企んでないから!」

「……わかったよ……っともう時間だな……」

「そうだね。そろそろ行った方がいい」

時計は開演15分前を指してる。

「……本当は今言おうと思ったけど辞める。
明日の夜、休みだろう?
家行くから待っててくれ」

わざわざ1人でヒロ兄ちゃんを撒いてまで楽屋に来たから何かと思えば、それは明日に先延ばしになったらしい。

「んー、わかった。
明日ならなんも無いし待ってるね」

「あぁ、じゃあ、今日も期待してる」

「ゆっくりしてってね」

*

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