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中原バレンタイン

「っ……嘘でしょう?」

この時程、自分の料理スキルの低さを心底恨んだ。
明日はバレンタインだというのに。
さて、彼にどうするべきか……

「はぁ……」

「どうしたんですか?」

「あっ……樋口ちゃん……
……いや、なんでもない」

「なんでもないように見えませんけど……」

後輩の樋口一葉が心配そうに声をかけてきた。
昨夜のことを考えて頭が痛くなる。

「用意したんですね」

「え?」

「え? それ、中原幹部へのチョコですよね?」

「え!?」

カバンを見れば置いてきたはずのチョコの箱が顔を覗かせている。

「しまった……」

夜遅くに顔の利く首領とエリス嬢の行きつけの菓子店で買ったチョコの箱と間違えて気分でラッピングした失敗チョコを引っ掴んできてしまったのだ。
朝ギリギリだったし……

「お前ら疾く持ち場につけよ」

不機嫌そうに廊下を闊歩する彼……中原中也がこちらに近づいてくる。
朝からシマの女からチョコを何人もから迫られたのだろう。その証拠に少し甘すぎる香水の匂いが、彼から漂う。

「あ、はい! 申し訳ございません……!
では、私はこれで!」

「おう……あー、悪ぃシャワー浴びてから仕事するわ」

「いや、別に……大丈夫だけど……」

これは時間との勝負だな……
中也がシャワーを浴び終わるのが早いか、私が自宅へ戻りチョコを取って戻ってくるのが先か。

なんて思っていたからか、隙ができてスっと中也がカバンから箱を奪ったのだ。

「あっちょっ待って! それダメ!」

「あぁ? 俺へのだろこれ」

「ちが、いや違わないけどそれは違うの!
返して!」

いつも以上に必死な私を不審そうに見て

「……俺以外にやるって訳かァ?」

不機嫌な声を廊下に響かせる。
ミシッと廊下の床が嫌な音を立てる。

「いや、違うから本当に!
一回抑え──いっ!?」

「いい度胸じゃあねぇか
俺を捕まえて他の男にも手ぇだそうってか」

床にめり込む体に骨がミシミシと音を立てる。
まずい。なんか本気で怒ってるんですけど本気かこの男。太宰になんか言われたんかな…

「話聞いて……!失敗したのそれ!
間違えて持ってきたから捨てるの!」

「はぁ?」

ふと、体が軽くなり上を見れば顔を歪めた中也が覆いかぶさっている。

「んだよ……」

「話聞かないで先走ったのそっちでしょあほ! めっちゃ痛いんだけど!」

「で? なんで失敗作もラッピングしてんだよ紛らわしい」

「……したかったから……
買った方はラッピング済だし……折角ラッピンググッズも買ったし……」

「……ってことは、渡すっつってた方は買ったやつかよ……」

「……ごめん……失敗したから……」

「アホか……ったく俺はこっちでいいから」

「はぁ? 何言ってんの!?
折角夜中に……」

「俺が食いたいのはこっちだから。
おらっさっさと仕事すんぞ!」

「ちょっと!?」

彼氏力の高さを見せつけられてしまった。


*

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