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国木田バレンタイン

「っ……嘘でしょう?」

この時程、自分の料理スキルの低さを心底恨んだ。
明日はバレンタインだというのに。
さて、彼にどうするべきか……

素直に言おう。
明日昼休みに買うから待ってもらおう。

「おいこんな時間に何を……」

「うわあああ!? な、なんで……!」

キッチンには立ち入らないように言ったのにも関わらず彼氏である国木田独歩は顔を出した。

「ん? ……これは、チョコ……か?」

「っご、ごめんなさい!
失敗しちゃって……材料もう無いしスーパーも閉まってるし明日も仕事だし作れないから…昼休みにチョコ買ってくるから……」

情けなくて彼の顔が見れない。
国木田独歩という男は完璧主義者だ。
こんな失敗、許されることではない。
黙っている彼の顔をビクビクとしながら見上げれば、はぁ…とため息をついた。
ばつが悪くなってまた目線を足元に送る。

「俺の理想は、お前の作ったチョコを食べる、とこの手帳には書かれている。買ったものなどは一切書いていないし、『美味いチョコ』とは書いていない」

ガリっと音を立てて独歩はチョコを口に含む。

「……硬いだけで不味くはない。本当は明日食べると書いてあるが……明日であればお前はこれを捨てるだろう」

パクパクと小さなチョコを次々と口に運び咀嚼する。

「ちょ、そんなの食べなくても……」

「この阿呆!
言っただろう俺が食べたいのは『お前の作った』チョコだ。
それは俺の理想であり、我が人生の道しるべのひとつだ!」

別にお前のためではない!と、目を逸らした。
ふんっと言いつつ食べる彼のその仕草は照れ隠しのそれであった。


*

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