江戸川バレンタイン
「っ……嘘でしょう?」
この時程、自分の料理スキルの低さを心底恨んだ。
明日はバレンタインだというのに。
さて、彼にどうするべきか……
「ねぇ、僕普段は美味しいのしか食べないけど、君が作ったのなら話は別だからね」
朝、一言目に言われた言葉。
さすが、なのか。
名探偵の彼を欺き通すことは出来なかったらしい。
「……不味くても文句は言わないでくださいよ」
用意しなければ用意しないでギャーギャーと喚かれ仕事にならないと思って気が進まないままラッピングをした失敗菓子。
差し出せば彼はラッピングなど目にも止めずガサガサと開封して中身を食べる。
「ん〜不味い!」
「だから……「でも、食べれないことは無いよ」……珍しい」
「ま、君が作ったものじゃなければこんなもの食べはしないけどね」
ツンっとそっぽを向いた乱歩さんの耳は真っ赤で、彼なりの照れ隠しは分かりやすい。
名探偵も形無しだ、と誰かがそれを見て笑っていた。
*
prev / next