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社内

敦が社へ戻れば、定時はとうに過ぎてるというのに殆どの人間が未だに社で残業していた。
月末だからか書類作成等をする調査員の姿も見える。

「ただいま戻りました」

一言声をかけると「おお帰ったか敦。さっき依頼者から直接礼の電話があったぞ。よくや」と先輩である国木田が、敦に視線をやって言葉を止め固まった。その視線は敦の腕に収まった少女へ向かっている。

「な、なんだその娘は!」

ガタンっと音を立てて立ち上がって敦へ詰め寄る。
その声にフロア内の視線が敦と国木田に注がれた。その視線と国木田から突き刺さる程の鋭い視線に居心地悪そうにたじろいだ。

「依頼から戻ってくる路地裏で倒れてて……
意識もないんです……けど……」

「だからといって拾ってどうする! 犬猫ならまだしも!」

「まぁまぁ国木田君。そんなに怒らなくてもいいじゃないか〜
美しいお嬢さんだ……目が覚めたら心中を「黙れ太宰!」でも行き倒れのようには見えないとは思わないかい? 宿無し(ホームレスや孤児の類にも見受けられない。
私としては事件に巻き込まれたと思うのだがね」

くっ、と国木田は乱入した同僚、太宰の言葉に反論を飲み込む。

「与謝野医師」

「はいよ。敦、医務室に運びな。
軽く診るかねぇ」

こきっと関節を鳴らして体を伸ばす女性、与謝野晶子は立ち上がり、指示した敦に続いて医務室へ向かった。
運び終えた敦が事務所へ戻れば国木田と太宰に尋問をされる。

「どこで見つけた?」

「その、手前の路地裏です」

「ここかい?」

と太宰が取り出した地図を指さした。

「あ、そうです! ここです!」

と話していれば「太宰」という与謝野の声が廊下から響いた。その声に振り向いた太宰達の視線の先に立つ与謝野が手招きした。

立ち上がった太宰が出入口へ向かい、暗い廊下へ与謝野と消えた。

*

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