食事
薄すぎず濃すぎない優しい塩味に、硬すぎず柔らかすぎない米。
暖かな湯気が上がる粥を食べる真誉の手はゆっくりすぎる。
「あの……」
「ん〜?」
医務室・午後十二時四十分。
「そんなに見られると……食べづらいです……」
蓮華を運ぶ真誉は目の前で顔を両手で固定して見詰めてくる太宰に小さくこぼした。
こうなったのは数十分前に遡る─────
十二時をすぎ社員は昼休憩に入り昼食を摂るため外出したり出前をとったり弁当を広げる。
給湯室では与謝野が粥を作る。
と言うのも、昨夜より医務室にいる少女の昼食に男性陣が出前で、と言ったところで与謝野はその意見を切り捨てる。
「体調が万全じゃない子に出来合いを食べさせる気かい? 妾が作るからアンタらは引っ込んでな」と。
鍋から器へ移した処で「医師、私が持っていくよ」と声を掛けられた。与謝野は声の主に目もくれず蓮華を取り出し盆に載せる。
「アンタに頼まなくても妾が持ってくよ。
恩を売るつもりかなにか良からぬことを考えてんのか知らないが……」
と言葉を区切り盆を手に男、太宰へ漸く視線を送る。
「厭だなぁ……医師はまだ昼食を食べてないだろう? 私が持っていくから食べておいでよ」
「そんな気遣いを太宰が出来るとは思えないんだがねぇ」
この心遣いが谷崎や賢治、敦であらばありがたく受け取っていたが相手はあの、太宰。
「非道い! この私の目を見ても信じられない!?」
「信じられないよ」
バッサリと瞬殺すれば「あの子には何もしないさ。これに関しては私を信用してくれていい」と云う。
ここで信頼でなく信用と云う辺りタチが悪い。太宰の事は普段信頼出来ないが信用は出来る。
はぁ、と溜息をこぼし与謝野は盆を太宰に押し付けた。
「アンタのせいで出前とる時間もなくなっちまった。下に食べに行くからあとは頼んだよ」
と廊下を歩き出て行った。
────────ということがあったからで
「じゃあ食べさせてあげようか?」
「いっいいです!」
太宰は親鳥が雛鳥へエサをやるように真誉に食べさせようとしてきた攻防は5分にも及んだ。
蓮華に粥をすくい上げ口元へ寄せる太宰はどことなく楽しそうにも見えた。
「えぇ〜……それならば気にせず食べ給えよ。
私は見てて楽しいからね」
にっこり笑ってこちらから視線を外さない。
「……はぁ……」
彼女は太宰の見守る中、食事を続けるほかなかった。
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