─────4月 春
新年度
警視庁警察学校には門前でマスコミが締め出されていた。
「警察学校に警備つけるって、なんか色々本末転倒だよね」
「誰のせいだと思ってる?」
「いやマスコミでしょ。
どこで嗅ぎ付けてきたんだか……」
「6ヶ月間、か」
「なぁに? 寂しいの〜?」
ニヤニヤと笑うのは数々の事件を解決に導いた、もうお前ほとんど警察だろ刑事だろ捜一だろ、と言われる女。
「ちげーよばーか。
しっかり揉まれろ」
サングラスをかけて緩くネクタイを締めている男は強めに女の頭をガシガシと撫でた。
「ちょっと! 髪! 乱れる!」
もう! と言いつつ髪を直した。
警察関係者から一目置かれる白樫美音は、警察官になることを選択した。
既に確立していたキャリアは手放して、6ヶ月の地獄の日々が始まる。
地獄っていうのはね、
「こういうこと、よ!」
短気は損気──だなんていうのは案外当たってるのかもしれないが、私にとってはやられっぱなしなんて真っ平。
「いで、いででで! なんだこいつ!」
入学早々速攻で喧嘩を売ってきたのは同期生。
どうにも私が気に入らないらしい。
気持ちはわかるけど。警察学校の教官にも知られているし、なんなら私が幼少の頃現場で会っていた人すらここにはいる。
現役刑事が来ることもある。
同じノンキャリア組のくせに、と目障りらしい。
よく聞かれることがある。
キャリア組を選択しなかったのか。君ならなれるのに。と。
「痛い? それ。
私がたまたま強かったからいいけど、丸腰の、女、それも不意打ちで手を出そうとするなんてアンタ本当に警察官志望?
すぐ問題起こして左遷されそ
」
「いで!るせぇ! はな、せよ! 」
「離してください、でしょ。
被害者はこちらなんだけど」
「いででででで! 離してください!」
「仕方ないな……」
ぱっと手を離せば、ビタンッと床に落ちた。
「てめぇ……」
「私に勝てるようになるまでちったぁ努力しな」
先にこれだけやったおかげもあり、それ以降手を出されることは無かった。
と、いうか、たまに目暮警部が厄介なの持ち込んできてたわ。
それ新一に流してください。
そんなのを見てるからか、手を出して消されることを懸念したのだろう。
何故か定期的に松田・萩原コンビが機動隊関係で来てたけどなんなの?
研二さんは女子にキャーキャー言われて満更でもなさそうだし。
「で、怒って黙って外泊?」
「許可はとってるよ」
「教官からはね」
「しかも普通に帰省だし」
「それはそうだけど……」
苦笑して料理を出してくれたのはなんやかんや様子見に来てくれた景光さん。
公安に戻り忙しくしてるのだけれど、ブランクがあるとかなんとかで昇進せず零さんの下についてるらしい。
下、と言っても立ち位置はそう変わらない。
冷静に見えて激情家の零さんのストッパーだ。
「俺達も通った道だけどね」
「結構、しっかり、厳しいけど……多分恵まれた環境のおかげで同期よりは元気だよ」
「だろうね……俺達はその頃そんなに食欲なかったよ……」
「5人の時はどうだったの?」
「……ゼロと松田が早々に殴りあったかな」
「はぁ!? 零さんが!?
陣平さんがなんかやらかしたってこと!?」
「どういう意味だ」
「あれ、来てたんだ」
「おう、空いてたから勝手に入った。
気をつけろよ」
「勝手に入った人の発言じゃなくない?」
「……ここに入った不審者、泥棒が気の毒になるだろ」
「あーね。そういうね」
「で、何の話だよ」
「みんなの警察学校時代の話ー」
「特に面白い話はねぇだろ」
「FDぶっ壊した話は?」
「FD!? まさか鬼塚教官の!?」
「なんでわかるんだ」
「まだFD乗ってるから」
「乗ってんのか……」
目を逸らした陣平さんに、鬼塚教官を避け気味なのは気恥しいとかじゃないことを悟った。