※子ギル・子オズの話です







《悲しき人魚の話》








「ふえぇぇ・・・ぐすっ・・・」
「ぎ・・ギル?!どーしたんだよ」




僕を見て、オズ坊ちゃんはぎょっとしたように驚いた。
一方僕は床にへたり込みながら、滝のような涙を流していて。オズ坊ちゃんが驚いたのも無理はない・・・


オズ坊ちゃんは苦笑すると、僕の隣にしゃがみこみ、覗き込んでくる。
ああ・・なんてやさしいんだろう。
確かにオズ坊ちゃんは自他共に認める、超ドSだ。
いつも僕にかまってくれ(標的にされ)、死ぬほど嫌いな猫をつきつけられたことは数知れず。嫌いなピーマンをこっそりお菓子に仕込んだり、お茶に唐辛子を振り掛けられたりもする。だけど、坊ちゃんは心はとても優しくて。暖かくて。



「ぼ・・・坊ちゃん・・・」
「とりあえず涙拭けよ、ほら」




そう言ってハンカチを僕に差し出す。


僕はそれを受け取り、ごしごしと涙を拭いた。




「で、何?どうしたの?いじめてくる奴とかいんの?そいつの名前教えろ。絶対そいつをいじめ返してやるから」
「い・・いや・・・」
「ギルをいじめていいのは、オレだけって決まってるんだからなっ」
「ち・・違うんです!」





勝手な方向へ勘違いを続ける坊ちゃんをあわてて止めた。
このままだと、オズ坊ちゃんがダークな坊ちゃんになってしまう・・・・!!






首を傾げるオズ坊ちゃんに、僕は傍らに置いていたある絵本を取り出す。
その表紙には、下半身のみが魚の姿をしている美しい女性が描かれている。






「これって・・・『人魚姫』だろ?」
「はい・・あの・・これを読んでて・・・」
「で?」
「それで・・・あの・・感動して・・・」



そこまで言うと、オズ坊ちゃんはけらけらと笑い出した。
しまいには、おなかを抱えて床を転がりだす。

その状況が5分ほど続き、まだ息が荒い坊ちゃんは、僕を見て、

「ギル。お前、やっぱギルだな」
「い・・意味分からないです!だって、感動するじゃないですか!」
「まぁなぁ。感動はするけど」
「に・・人魚姫は王子様に一目ぼれして、声を失ってまで人間になって。でも、そうまでしたのに王子様には何も言わなくて!王子様を殺すより、自分が泡になる方を選んだんですよ!」







自分の幸せより、王子様の幸せを祈って。人魚姫は泡となり消えていく。





 


「か・・・感動じゃないですか!」



オズ坊ちゃんはしばらく顎に手を添えて考え、そうかなぁ、と呟いた。





「オレは、人魚姫は勝手だと思う」
「な・・・何でですか!」
「だって、王子様の幸せを考えてないじゃん」


王子様の幸せ・・?



「王子様の幸せもさ、人魚姫と幸せになることだったらさ?どっちも幸せを逃してることになる。2人の幸せの場所は、一緒だったのにさ」







僕はうつむき、考えてみる。王子様も、人魚姫と一緒にいることが幸せなら・・・・・
辛い。辛すぎる。すれ違ってばっかじゃないか。




「辛い・・ですね・・」
「オレはさ、もしこの状況で、ギルが人魚姫、オレが王子様なら・・・・」
「お・・オズ坊ちゃんのほうが、姫様が似合いますよ!」
「例えだから。オレは、海に落ちていくお前の手を掴んで、引っ張るよ。ギルには側に居てほしいから」





オズ坊ちゃんのその言葉に、胸が熱くなる。
『ギルには側に居てほしいから』
この言葉が、あまりにも胸に響いて。


こういうことが時々ある。


この気持ちの名を、僕は知らない。










「ぼ・・っ・・ぼくもっ!オズ坊ちゃんを助けます!側に居てもらいたいから!」



そう言うと、オズ坊ちゃんはくしゃりと顔をほころばせた。




「その前に、ギルはオレよりでかくならなきゃだな。あと体力も。そんなんじゃオレを引っ張れないぞ?」
「つっ・・!ぜーったい、大人になったらオズ坊ちゃんより高くなりますから!」
「ギルには無理だよ」




そう言って笑うオズ坊ちゃん。




そして、僕は誓うのです。

大きくなって、強くなって、オズ坊ちゃんをお守りしよう、と。











あれ?しんみりと終わらせようと思ったのにな?(笑

ってかオズギルみたいになったのは…気のせい…か(笑


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