《20センチを飛び越えて》
自分の愛する主人が見当たらなくて、あちこち探した結果、ようやく見つけたその場所は、厨房で。
遠くからでも分かる、その姿を見つけ、ギルは声をかけようとして・・・
「おおおおおオズっ!!」
慌てて駆け寄り、その手にあった牛乳瓶をすかさず取り上げる。業務用だからかそれは大きく、ギルの手にずっしろと重みが伝わってきて。その量を、オズは一気に飲もうとしていたのだ。
「おまっ・・こんな量を飲む気だったのかっ?!」
こんな大量に飲んだら、お腹を壊すに決まっている。ただでさえ、オズは小柄なんだから、と長々と続くギルの説教にオズはつまらなそうにそっぽを向いて、
「ギルは過保護すぎるんだよ」
とぷくりと頬を膨らませた。
「いいじゃん、牛乳たくさん飲むくらいさ」
「しかし・・というか、なんでこんなことを・・?」
オズには特別、牛乳フェチというものなどないし、きちんと栄養のバランスをギルが管理しているため、たんぱく質だけ足りないとかいうこともありえない。他に考えられることは・・・
「まさか・・身長を気にしてるのか?」
おそるおそるギルの尋ねたそれに、オズは顔を真っ赤にして後ずさったから、それが正解で。ギルはほっと安心してから、可愛すぎるオズに頬を緩めた。
「オレは、オズはそれくらいの身長でいいと思うが?」
「つっ!おっ・・お前は高いからいいだろうけどっ、こっちの身にもなれっ!」
確かにギルは平均よりもずいぶん身長は高く、対してオズはずいぶん低く。身長差は頭1つ分はある。
どうやらそれがオズは気に入らないらしい。
「オズは小さくても可愛いぞ?」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ・・どういう?」
少ししゃがみこんでオズの顔を覗き込むと、オズは恥ずかしいのか涙目でぷるぷると震えている。そんなオズの姿にきゅんとしつつ、頬を優しく撫でると、オズはゆっくりと口を開く。
「・・・きっ・・キスするとき・・」
「ん?」
「キスするとき・・ギルはそういう風にしゃがんでくれるでしょ。だから、きついかな、と思って・・」
聞き終えるやいなや、ギルはばっと鼻を押さえた。
やっ・・やばい可愛い過ぎる!というのがギルの心境。ギルとオズは主人と従者という関係だけでなく、恋人同士でもあって。キスをするとき、身長差があるため、いつもギルが若干しゃがんでいるのだが、オズはギルへの負担を考えていたらしい。かわいい、かわいい、かわいいっ!!
「オレはきつくないぞ?」
「え・・ほんと・・?」
「ああ」
そんなにオズが心配してくれてるなら、毎日スクワットをしても、ギルはぜんぜん構わない。というか、これからして鍛えよう。よし、決めた。
「オズはこれから伸びるから、な?」
「ん・・・」
ギルが頭をなでなでしてやると、オズはこくりと頷いて、ギルの腕に自分の腕を絡めた。そして、ギルの腕をぎゅうっと抱きしめる。ギルはもう1回頭を優しく撫で、
「オレの部屋でお茶にでもするか」
「うん!」
そうして、2人で厨房を出て、ギルの部屋に向かう。
「本当に、ギル、無理してないよね・・?」
「当たり前だ」
「オレとずっとキスしてたら、ギル、腰が曲がっちゃうかもよ?」
「本望だ」
ずっと、オズと一緒に居られるならな、とギルが笑うと、オズは耳まで真っ赤にして。恥ずかしそうに、目線をあちこち動かして、何かを見つけたらしく、「あ」と声を上げた。
「オズ?」
きょとんとするギルを引っ張り、オズは駆け出す。向かった先は階段で、ギルはてっきり上の階になにかを発見したのかと思ったが、そうではないらしく、階段の手前でオズは足を止めた。
「オズ?」
「ギル、そこに立って」
そう言って、オズはギルを階段のすぐ近くに立たせ、自分はとんとんと階段を2段ほどのぼって、くるりとギルの方を見た。すると、ちょうどオズとギルの目線は並ぶことになり。
「オズ・・?」
今だ状況についていけていないギルの頬を、オズは両手で包み、そっと顔を寄せた。ギルは目を大きく見開いており、そんなギルの唇に、オズは自分のそれを重ねる。
しばらくしてオズの顔がギルから離れる。そんなオズの目に映ったのは、ギルの真っ赤な顔。してやったり、という顔でいたずらっぽく笑うオズに、ギルは目を離せない。
「お・・オズ・・・?」
「これで、ふつうにチューできるね!」
オレ、天才かも。そう言ってはにかむオズを、ギルは思わず己の胸に抱き寄せた。
身長差ばんざい!
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ギルオズ仲間とメールで話していてなんとなく書きたくなった話。
オズは小さいのがいいと思います(笑