《あなたの言った言葉が》










「ねぇ、エリオット。ちょっとさ、出かけない?」

恋人であるオズのそんな言葉にオレは驚いた。

「お前から誘ってくるなんざ、珍しいじゃねーか。何だ?隕石でも落下してくんのか?」

そう軽口を叩けば、いつもは「そんなわけないでしょ!」と突っ込んでくるのに、今日は何も言ってこない。ただ、胸元あたりを、そわそわと触っている。何だ?虫刺されか?


「オズ?」
「あ・・ううん、何でもない!」
「で、いつ出かける?」
「あ・・き・・今日!今日がいい!」
「はぁ?今から?」


オレはそっと、壁にある時計を見やる。もう、夕方だ。
当たり前だ。今日はオズと会う約束はなく、この屋敷には義兄に用事があって来ただけだったからだ。ってか、そんならもっと早くオレに言えばよかったじゃねぇか。



「明日とかだめなのか?」
「だ・・だめ!出来るだけ早くがいいの!」
「お・・おう。じゃあ、今から行くか」


そう言うと、オズは顔をほころばせた。
だけどその笑顔は、嬉しさ半分、よかったという安心半分で・・・
オレは眉をひそめる。
こいつ・・何か隠してやがる・・?



「じゃ、オレ、出かけてくるってギルに行って来るね!」


オズは慌ててぱたぱたと駆けていく。
どうにもオズに何かあると勘付いたオレは、足音を立てないよう、忍び足でオズの後をつけた。
ちょうど角を曲がったところで、あいつは目的のギルバートに会ったらしく、息をひそめ、耳に全神経を集中させた。





「オズ!今は出歩くなと言っただろう!」
「いいじゃん。ギルのけちー」
「お・・オズ!お前の刻印は、もうすぐで1周してしまうんだ!とにかく・・オレやブレイク、バカウサギから離れるな!!」




どくん。
あの・・義兄は・・何を言った・・・?



オズの刻印のことは知っている。そして、その刻印が1周した時、その刻印をもつ違法契約者はアヴィスの深淵に落とされるということも。








「ギル。大丈夫だから。まだ、昨日動いたばかりだから・・・・今日は大丈夫だと思う。お願い・・ギル」
「しかし・・っ」
「ギルやみんなが一生懸命オレを守ろうとしてくれてるのは分かってるよ。ありがと、ギル」
「オレは・・お前をもう、手放したくないんだ!!」
「すぐ・・帰るから」






オズの足音がこちらに近づいてくる。オレは慌てて来た道を引き返した。
今さっきの、オズと義兄の会話が信じられない。
嘘だ嘘だ嘘だ。
オズのタイムリミットが・・・もう・・ほとんどないなんて・・・














 

 
オズは、夜景を見たいと言った。
そこで、山の頂上にある展望台へ行くことにした。
幸い、展望台までは道が整備されているので、オレとオズは馬車に揺られながら、山道を登った。
その間、車内は沈黙に包まれていて。
オズはずっと切なそうに窓を流れる景色を見ていた。


そうこうしてようやく着いたころには、辺りは真っ暗で、夜景を見るにちょうどいい頃になっていた。
オズは、楽しそうに展望台へかけていく。
不思議なことに、オズの金髪は例え周りが闇であったとしても、ひときわ存在感を放っている。まるで、そこだけが昼間のようで・・・


「エリオット!早く早く!」
「はいはい」



オレは苦笑しながらオズを追う。
展望台の階段に足をかけながら、オレは思った。
全て、嘘だったんじゃないかと。
オズの刻印が、もう、1周してしまうことが。
オズが、オレから離れてしまうことが。
そうだ、そうに違いない・・・




オレはそう己に言い聞かせて、階段を上りきった


どうやら今日は展望台は貸切らしい。
ひっそりとした展望台に、先に駆けていったオズがいて。手すりを半ば乗り出すように星空を見つめていた。






「ばか、危ないぞ」
「ねぇ!見てよ、エリオット!綺麗だねぇ!」






絵の具をぶちまけたかのような黒い夜空に、月と、宝石のような星がまたたいている。
綺麗だ。オレは、こんなに綺麗な夜空を見たことがない。いや、見たことはあるかもしれない。でも、こんなに綺麗だと思うのは、こいつと見ているからだと思う。
こいつがいるから、世界は輝いてみえる。



世界にオレたち以外、誰もいなくなったような錯覚に陥る。







「ねぇ、エリオット」
「ん?」

半分無意識に答えてしまったオレに、オズはオレが、最も聞きたくない言葉を紡ぐ。





「別れよう」









オレは、口を開いて、ひどく自分の口が渇いていることに気づいた。
なんだよ、オレ。緊張してんのかよ。



「なん・・でだ・・?」
「ほら、オレ考えてみたんだ!オレ、やっぱりエリオットのこと、恋人として見れないなぁって。いや!エリオットのことは好きだよ!ちゃんと・・友達として!だから・・・・別れよう。別れてください」






 


ずっと、オレが片思いのときから、そして、両思いになったときから今まで、オレはずっとオズを見続けていた。
だから、知っている。オズは、嘘が下手だ。
視線をあちこち移して、早口になるのが、オズの嘘をつくときの癖で。ちょうど今も、同じような行動をしている。




なぁ、オズ。お前の考えなんてな、すーぐに分かるんだぜ。



どうせ。オレを悲しませたくないから、オレから離れていくんだろ。
嘘つきやがって。






「嫌だ」
「え・・?」
「別れたくない。オレは、お前が好きだ」




そう言うと、オズが泣きそうな顔をした。


「お願い、エリオット」
「いやだ!」



やべぇ。オレ、ガキみたいだ。こんな、駄々をこねるなんて・・・
今までのオレなら考えられなかった。
こんなに、1人を想うなんて。




オズはしばらく泣きそうな顔をして・・・・不意に、胸を押さえて膝をついた。

「つっ・・!!」
「お・・オズ?!」
「触るな!」



オズに触れようとすると、オズの怒鳴ったような声がして、オレは寸前で手を止めた。
オズは、そんなオレに気にせず、よろよろと立ち上がり、階段に向かって歩き始めた。



「オズ・・!ちょっと待て・・そんな体で・・・・」
「大丈夫。ギルが、下で待ってるから・・・エリオット」






オズは唇をかみ締め、オレの目を見つめる。
その綺麗なエメラルドの瞳には涙がたまっていて、こらえきれず、ぽたり、ぽたりと地面に落ちていく。











「大っ嫌い。もう、顔も見たくないから、もう、オレのところには来ないで」



 





 
 
オズの体は震えていて。
ばか。顔に出てんだよ。









嘘だと言うことは明らかで。
それでも、オレは声もかけることも、追いかけることもできなかった。

(オレは何もできない)


刻印の針が動いて、本当は1番辛いはずのオズ。あいつはそれでも決めたんだ。オレとあらかじめ距離を置いて、オレを悲しませないようにと。

オレはオズが好きだ。
でも、オレにはどうすることも出来ない。オズを助けることも、オズをしっかりと受け止めることも。



自分の無力さを実感して、オレは強く壁を叩いた。衝撃で血が流れたが不思議なことに痛みを感じない。
そして、崩れ落ちるように膝を地面について。
ひとり、涙を流した。




(たとえ無力でも)







(君が好きなのに、)










なんとゆーシリアス(笑
 
お題は『kara no kiss』さまの「わからないで5題」より


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