※「花びらひとつ」の続き
《花びらふたつ》
「ねぇーエリオットぉ」
「何だ」
「ヤろうよ」
ぶーっとエリオットは飲んでいたお茶を吐き出した。
エリオット汚いよ、と苦笑するオズをきっとひと睨みし、
「何言いやがるんだてめぇ!」
「いや、ふつうに」
「どこがふつうだ!」
「だって・・ねぇ、この状況分かってる?エリオット」
そう言いながら、オズは示すように手を広げた。
その際、豪奢な着物の袖もなびき・・・その動きすらもエリオットに魅させる。
「ここは遊郭。ナイトレイ家からは十分なお金をもらっていて、部屋で、こんな可愛い美少年と2人きり!はい、結論は?」
「なんだ?」
「もう!オレを頂くしかないでしょ!」
頂く・・・っ、オズの言葉を繰り返し、エリオットは顔を染め上げる。
「な・・っ!オレがお前をいただくわけないだろ!」
「どうして!」
「つっ・・・!!」
真っ赤になって言葉を失うエリオットを一瞥し、オズはゆるゆるとエリオットの頬に己の手を当て、やさしく撫でる。
「ここに通うようになって、10回。エリオットはオレには全く手を出さないよね・・・?そして、いっつも、オレとおしゃべりしかしない」
「・・・・そうだな」
「どうして?オレが嫌い?男は嫌?女の子に代えてもらおうか?」
エリオットの瞳が、オズの瞳を捉える。
綺麗で、いつも強気なその瞳には、こころなしか潤んでいて。
ズキリ。胸が痛む。
「そんなわけじゃ・・・・」
オズの目から、きらりと、何かが零れ落ちた。
それは、とどまることなく、畳に降り注ぐ。
「じゃあ何?オレが・・・汚いとか・・・?」
その言葉で、エリオットの中で何かが切れた。
汚い?誰が?
「なわけないだろう!!」
この何ヶ月間。エリオットは、オズについていろいろなことを知った。
妹を助けるため、自らの体を売り続けていること。
ときどき辛いんだよね、と悲しそうな顔をして、でも涙を流さない強い心。
おしゃべりが好きで、いつも話したら止まらずに「また抱いてもらえなかった」と苦笑してたこと。
エリオットは怪我をしていると、真剣に手当てをしてくれたこと。
でも、自分が傷ついても放ってしまうほど自分を大切にしていないこと。
すべてが愛しくて。
汚くなどない。綺麗すぎて、エリオット自身、何百回も見とれてしまうほどなのだから。
「じ・・じゃあ!」
オズ涙を袖で拭うと、エリオットを見上げ、
「何でオレを抱いてくれないの!」
「お前が好きだからだバカ野郎!!」
「・・・・へ?」
ぽかんと口を開けるオズ。
エリオットはそんなオズを己の胸の中に引き込んだ。
小柄なその体は、すっぽりと収まる。
「だから!好きなんだよ!お前のことっ!」
「で・・でも・・エリオット抱いてくれな・・・」
「金払って、好きな奴を無理やり抱いて喜べるか!バカ!」
「・・っ!」
オズが、かあっと顔を赤らめた。
エリオットも同様に真っ赤で、どくんどくんと心臓の音がいやに大きく響く。
いったいどれほどの時間が流れたのか。
いや、本当は数秒しか経っていないのかもしれないが、エリオットには数時間は経ったように思われていたころ。
オズが小さく口を開く。
「無理やり・・じゃないよ?」
「は?」
「オレも・・・エリオットが好き・・だから・・その・・・・・・」
オズはきょろきょろと恥ずかしそうに目線を動かし・・・・最後にはようやくエリオットを見て、
「抱いて・・ほしかった。仕事とか・・そんなの関係なく」
エリオットが「おまっ・・・」と口を金魚のようにパクパクする。
「なんちゅー恥ずかしいことを!」
「ぜ・・・ぜったいエリオットの方が恥ずかしいから!何あのタイミング!」
「う・・うるせえ!オズがめそめそ泣くからだろーがっ」
「え・・・エリオットのせいだろっ」
「オズ」
急に真剣な表情になるエリオット。
オズもそれを見つめ返して。
「オレの屋敷に来ないか?」
「え・・?」
「そこで、オレとだけ、一緒にいろ」
「いいの・・?」
「当たり前だ」
「ずーっと?」
「ずっと」
嬉しい、とオズは顔を手で覆い、本格的に泣き出し始めた。
エリオットはおろおろと慌てだす。
「な・・っ何で泣いてんだ!」
「だ・・だっでぇ・・・絶対、叶わない恋だと思っていたから・・っ」
泣きじゃくるオズの涙を拭うと、エリオットはそっと、オズの顎を持ち上げ、唇を重ねあう。
最初に会った時みたいな、情熱的なものではない、重ねるだけのキス。
それでも、幸せで。
「大好き、エリオット」
「愛してる、オズ」
こんな“愛”のはじまり
やっぱりハッピーエンドで終わらせてみました(^-^)