視界は暗転、空は晴天 | ナノ



「いッ、嫌あああああ!!」
「うっせーな耳元でピーピー騒ぐんじゃねーよ!」

此処はオレの部屋だ。他人の家できゃんきゃん騒ぐ客人が何処に居るのか、と言いたくなったが、実際家にはオレとこいつ以外誰も居ない。

こいつ。
それが今オレの頭を悩ませている原因だ。



二十分ほど前だったと思う。
夏休みでおまけに部活も休み、そんな最高な一日を邪魔する奴はどんな奴か、と鳴り出したインターホンに半ばキレ気味で向かったのだが。
その画面に映っていたのは、何時もと様子の違う黄瀬だった。

『あ、青峰っち…あの、頼みがあるんスけど』
「んだよ」
『…………ピアス、開けて欲しいっス!』
「…はあ?」

そんなこんなで一旦部屋に上げ、黄瀬が持参してきていたピアッサーを見て自分で開ければいいじゃんと言った。黄瀬は、ぐっと押し黙ったかと思うとばっと顔を上げて、そして更に目を泳がせてから怖いんスよと小さい声で言った。その時は本当に笑った。盛大に。

その後睨み返してきた黄瀬が早くしろだの何だの言ってきたから、じゃあやってやるよとピアッサーを持って黄瀬に近付く。え、と小さく声が漏れたのはその時。

「マジでしてくれるんスか…?」
「てめえが言ったんだろ」
「あ、いや、そうなんスけど…ね、なんていうか…その…」

オレの持っている穴を開ける器具を見て、ひくりと引き攣る頬。なんていうか、じゃなくて、お前怖いんだろ。そう言ってやれば俯いてから、ゆっくりと頭が上下した。

「いーから。じっとしてろ」
「えっ、いや待って心の準備が」
「お前は女子かよ」

ばっ、と驚愕に埋め尽くされた顔を上げた黄瀬は、問答無用で耳に手を伸ばすオレの腕をがしりと掴んで座ったまま後退りをする。そんなものは抵抗の内に入らないってわかってねえのかな。そんな事を考えつつ、ベッドの縁に背中が当たる所まで追い込んで、いよいよ抵抗が出来なくなってきた黄瀬の手を今度はオレが掴んで一纏めにしてやる。黄瀬の目が段々潤んできた。こいつマジでビビッてんじゃねえだろうな。

「あ、青峰っちぃ…」
「今更やめろとか言っても無しな」
「うぅ…」

トドメとばかりにそう言ってやれば、顔を歪めて今にも泣きそうな顔。やべ、オレお前のその顔好きなんだよな。なんつーの、泣かせてやりたくなる感じ?まあ泣かせるつもり満々だけど。
拘束していた黄瀬の両腕を離しピアッサーを相手の耳朶に宛がうと、ビクリと体が面白いくらいに震えた。思わず口元が笑いそうになるがどうにか堪え、開けるぞと聞いても返事は返ってこない。まあそうだろうな、そう思い力を込めようとしたそのときだった。ぎゅっと目を瞑った黄瀬が、自由になった手でオレの腹辺りのシャツを掴んてきた。

「…………あお、みねっち…」
「…ったく、しょうがねえな…。掴んでていーから、オレのことだけ考えてろ」

こくり、頷いた頭にはあと溜め息をくれてやってから、自分の空いている手で黄瀬の手を握ってやった。するとそれまでシャツを掴んでいた手が、縋るようにオレの手を握ったからそれを更に強く握り返して、オレはピアッサーに力を込めた。





「…今思うと、結構危なかったっスよねー…」
「あ?」
「オレ、何で青峰っちになんか頼んだんだろ、ピアス」
「てめえ喧嘩売ってんのか?」

ピアスを開けた日から何年か経った今日。8月30日、一応オレの中では記念日に認定されている特別な日だ。
初めて耳に穴を開けたあの日を思い出して、思った事を素直に口にした。中学の頃のオレだったら絶対言えなかったさっきの言葉も、高校生になった今なら堂々と言えた。青峰っちはぎろりと睨んできたけど。その目やめてマジ怖いから。

けど、実の所後悔なんてこれっぽっちもしてなかった。自分が選んだ道だから、というのもあるけれど、やっぱり青峰っちは青峰っちだったから。

「…けど、青峰っち優しかったっスよね」
「んだよ、酷くして欲しかったか?」

そう言って笑うその顔はあんまし好きじゃない。悪い事企んでる顔だ。オレは青峰っちのその言葉を全力で否定して、はあと溜め息を吐いてから隣に座ってる青峰っちに凭れ掛かった。
青峰っちは振り払う事も押しのける事もせずに、オレの耳にはまっている青のリングピアスを指で揺らす。

「それ、似合ってんじゃん」
「青峰っちが選んだ奴だし、ね」

似合うのは当たり前じゃないっスか、そう言って笑って見せれば、青峰っちはふっと鼻で笑ってからそうだなとだけ返した。あーもう、やっぱそういう所も格好良く見えちゃうのって重度なのかもしれない。オレ、青峰っちに溺れてる。そう自覚するけれど、不安は無かった。青峰っちなら、溺れて死んじゃいそうになってもいいと思えるから。

「今度、新しいの選んでやるよ」
「え!マジっスか!」
「おー。楽しみにしとけ」

ただ、そう言って笑う青峰っちは多分オレが溺れそうになっても腕一本で引き上げてくれるよな。逞しいし。黒いし。まあ、そんな所も好きなんだけど。
青峰っちが好きすぎてどうにかなっちゃいそうだったから、凭れ掛かっていた体勢を元に戻して、青峰っちに向かい合ってから名前を呼んだ。

「青峰っちー」
「ん?」
「好きっス!」
「…バーカ、オレもだっつーの」

此方に体は向けないけれど顔だけ向けた青峰っちは、オレの頭をくしゃりと撫でながら笑った。相手も言ってくれた、オレの欲しかった言葉に心底嬉しさを感じつつ、オレより先に言ってんじゃねぇよ犯すぞ、なんて品の無い事言われて段々と心が冷めるのを感じる。あんたにはムードとかねえのか。

「第一、今日の真昼間からんな事してたら明日に響いちゃうっスよ!」
「あー…それは嫌だな」
「でしょ」
「ま、明日一日ごろごろしとくのもいいけどな」

それは無い。それは無いっしょ。だって明日は、今日より大切な日なんだから。

「楽しみっスね、青峰っち!」
「オレよりお前のが張り切ってんじゃねえ?」
「当たり前じゃないっスか、青峰っちももっとテンション上げてよー」
「あーはいはい、わーいたのしみー」
「っ棒読み…!」

つーかめんどいだろ、なんて言い出してしまった青峰っちに思わず頬を膨らましてしまった。なんだオレ、ガキみたいなことしてる。そうだオレはもう高校生なんだから、もっと積極的に行かないと駄目だよな。そう思ってから、オレは今日一番の行動力を発揮した。

隣に胡坐をかいて座っている青峰っちの前に回り、疑問符を浮かべた相手の肩に手を置いた。そこで何をされるのか悟ったらしい青峰っちは不敵に笑みを浮かべて、それでも何もしてこないからやってみろよ、と言ってるようなもんだと思った。じゃあやってやる、変な意地が働いて、いっつもならやらない行為を青峰っち相手にしてみせた。

ぐっと顔を近付けて、青峰っちの唇に自分のそれを押し付ける。熱い。いやオレの顔も。すっごい熱い。ぺろ、と自分の唇を舐められて、反射で大きく後ろに跳び退ってしまった。

「おいおい、お前からしてきたのに何でお前から逃げんだよ?」
「だっ、だってあんた今…!」
「ふは、顔真っ赤じゃん」
「……っ!」

時間にして30秒も無い間の出来事である。
にやにやと笑う青峰っちは正に余裕綽々で、必死になってた自分が何だか馬鹿らしくなった。けれど恥ずかしさとかは半端無くて、今きっと紅くなってるだろう自らの頬を触ってはあと溜め息を吐いた。

その時に自分が恥ずかしいから、という理由で下を向いてしまったのがオレの過失だった。

「…ま、誘ってきたんなら乗ってやるよ」

ぼそり、小さな声だったからよく聞こえなかった青峰っちの言葉だったけれど、何故か嫌な予感がしてばっと顔を上げた。するとすぐ目の前に青峰っちが居て、ひっと情けない声が出た。
逃げる暇も無く、床に押し倒される。あ、これマジだ。やばい。

「あ、青峰っち…んッ、んんー!」

何とか自由な口だけでも騒ぎ立ててやろう、そんなオレの考えは見透かされていたのか、騒ぐ前に口を塞がれた。青峰っちの口で。


暫く口内を掻き回されて、ぱたりと落ちたオレの腕に満足したのか青峰っちは唇を離した。ぷは、と酸素を求める音が聞こえ、ぜーはーと肩で息をしているのはオレなんだと、その時に自覚した。そんなオレに覆い被さっているような体勢の青峰っちは、口元を歪ませる。だから、その顔嫌いなんだって言ってんだろ。嫌な予感しかしねえよ。

「お前が誘ってきたのが悪いんだぜ、覚悟しとけ」
「…っは…最悪…」



( …そんな所も、好きっスけど )
( お前のその顔、やっぱ好きだわ )


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8/30ピアスの日記念小説。ほんと…何がしたかったのか…
結局ピアス関係ない方に走っちゃったしね!!明日に控えてる青峰誕は続編かもしれないですし全く別物になっちゃうかもしれないです



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