オンリー・カラー


放課後の教室、それも景色が仄かに暗くなり、校舎からは徐々に人影が消えていく時分に総司はいた。
窓際にある自分の席の椅子の背に、身体をもたせ掛けて寝る様子は驚くほど無防備で、その寝顔からは普段纏っている鋭利な空気は感ぜられない。


「総司…」


名前を呼んでも起きる気配はない。
よほど疲れていたのだろうか。そういえば最近めっきり総司に会わなくなっていた。
静かに寝息をたてる総司の前で、土方は考える。

総司を自分の腕に抱いた時から叶いもしない欲望が頭をもたげ、そのくせ諦めない心というものも次第に萎んでいった。
ずっと想ってきた相手は、何か自分が思い描いていた人物とかけ離れているきがしたのだ。
それ以来、今まで好きだった仕事も一気に味気を無くし、やめられなかった煙草も手をつけなくなった。
何が違ったのか、今となっては自分でももう分からない。


「土方さん、そこで何してるんです?」


意識の底から土方を引き上げたのは総司の声だった。
総司は怪訝そうな顔を土方に向けている。


「何でもねぇ。…早く…気をつけて帰れよ」


すげなく答える土方を殺意すら含んだ瞳で総司が睨んでいることを、土方は知っていた。
それも仕方がないことだ、と土方は思う。
総司を無理やり抱いた自分には、その視線と恨みを全て受け止める責任がある。総司に何も言えるはずがない。
土方はもう一度、早く帰れよと言い教室から出ようとしたが、強い力が土方の腕を引っ張り、身体ごと戻されることになった。


「…っ!?」


腕を掴んでいたのは総司だった。

あまりの痛みに顔をしかめる土方を、総司は離そうともせずに掴み続けている。総司の全身からは憎しみが滲み出ており、それが腕を介して伝わってくるようだ。
目は逸らさなかった。
胸はやはり、チクリと痛んだが、目を逸らして逃げるような真似はしたくはなかった。

しかし、想像していた総司とは少し違う。目が違う。
暗い憎しみの色を濃く映している瞳の中に、わずかな熱を見た気がした。


「今、僕を見てる…?」


総司は不意に呟くと、土方の胸ぐらを掴み、自分の方へと引き寄せた。
ぐらりと傾く土方の視界は総司で埋めつくされる。


「―――!!?」


ガリッという音が聞こえた瞬間、土方は唇に鈍い痛みを感じた。
総司は土方の唇から自分の唇を離し、乱暴に突き飛ばす。
背中を向けてしまった総司からはもう何も伺えない。


「忘れない…ううん、忘れさせないから」


壊れんばかりの勢いで教室の扉を蹴り開けると、総司は土方に一瞥もくれずに帰っていった。


そっと血の滲む唇を撫でた。

ズキズキと痛みがぶり返したのは総司がいなくなったすぐ後だ。
土方は教室の窓辺へ駆け寄って、血のついた指で鍵を開け、急いで窓を全開にした。
夜の冷えきった風が土方の髪を靡かせる。
下を見るが総司はいない。


「何も変わらねぇ」


色だ、と土方は呟いた。
漫然と日々を過ごしてきた土方にとって総司は「色」だった。



土方はポケットから出したシガレットケースを叩き、出てきた煙草に火をつけた。



-End -
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