≪そのとき≫
(1/3)
彼は泣いていた。
しっかりと大地を踏みしめ、背に夕日を浴びながら、まっすぐに前をみつめて、泣いていた。
涙を拭う事もせず、嗚咽を漏らすこともなく。
驕りもせず恥じもせず、喚きもせずただ泣いていた。
震える拳で掴んだ物は何か。
濡れた瞳で見据えたものは何か。
真っ赤に燃える夕日は静かに彼の背を焼き、
彼は小高い丘の上で一人、それを耐えるようにじっと涙を流すのだった。
「Bluhe, deutsches Vaterland」
瞳の先に広がるのは、夕日のように赤く燃え盛る、
今まさに滅びんとする彼の祖国であった。
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