飴。

(2/4)

ぱき、ばき、ばり。
トットリは今度は残っている骨を砕く作業に移った。
背骨らしき長い骨にくないを突き立てる。
しかし、その行為は三十秒も続かぬうちに中断された。
近くに人の気配を感じたからだ。
本来なら直ちにこの場を離れるべきなのだが、気配の正体に気付いていたトットリは立ち上がるだけでその場を動こうとはしなかった。
トットリが気配のする方を向くと、背の高い影が一つ、林の中から現れた。
徐々に近付いてくるその影はトットリが予想した通りの人物だった。

「任務以外での殺しは禁則事項どすえ」
「僕ぁ殺しとらん。いじっとっただけだっちゃ」
「さいでっか。しかしまたえらい酷おすなぁ、ぐちゃぐちゃやんか。これはあんさんが遊んだんやろ?」
「…死んだ後で何やっても同じだらぁ」
「恐ろしいお人どすな」

アラシヤマは苦笑しながら惨殺死体に手をかざした。

「可哀相に…」

彼の手から生み出された炎はゆっくりとそれを覆い、ぱちぱちと音を立てて死体を灰に変えていく。
肉の焦げる臭いが辺り一面に広がる。
トットリは口の中の飴玉を転がしながらぼんやりと舞い上がる灰を見送った。
灰は月へ昇るようにキラキラと空に舞っていた。
決して美しい光景ではないが、二人はしばらく黙ってそれを見ていた。

「何か食べてはるの?」

トットリが口を動かしていることに気付いて、アラシヤマが沈黙を破った。
しかしトットリはその問いかけに一瞬驚いたような表情をみせた。
アラシヤマの言葉を聞くまで自分が飴を舐めていたことを忘れていたのだ。

「…飴玉」
「こんなとこでようそんなもん食えますなぁ、見てるこっちが気分悪なるわ」
「そりゃあ良かった」
「ほんま口の減らんお人やわ…」

死体は完全に黒い塊になった。



「何もな」
その灰の塊を蹴りながらトットリが口を開いた。

「何も、感じんのん。感覚が死んでしもうた」
燃え殻から視線を逸らさず呟く。

「でも取り戻せんかなって思って」
飴玉をもごもごと動かす。視線は相変わらず灰に向けられたままだ。

「死体みたら怖いって思うだらぁ、だけぇ僕は恐怖を味わいにきたんだっちゃ」
そう言うとトットリはゆっくりと顔をあげて、笑ってみせた。
精気のない笑みはひどく哀れだった。



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