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▼ ヤンデレ英雄_赤弓ver.

そんな所でどうかしたのか、という耳によく響く低音に顔を上げると、赤い外套を揺らして座り込む私の目の前に立ったアーチャーがいた。用事があったのだろうかと首を傾げる。


「いや別に。これと言って要件は無かったんだが」

「そっか」

「…なまえの顔が見たかっただけだ」


バツが悪そうな、照れを誤魔化しているような顔で視線を逸らすアーチャーに、精悍な顔立ちのくせに可愛いなという無茶苦茶な感想を抱いてしまう。ぼうっとアーチャーを眺めていれば、気付いたアーチャーがどうかしたのかと腰を下ろす。ううん、特に何も無いんだけどなぁ。


「ね、アーチャー」

「うん?」

「お腹空いた」


きょとりと私を見たアーチャーは、徐々にその精悍な顔立ちを穏やかな笑みに変えて頭を撫でてきた。何だかむず痒い気分だなぁ。


「何を食べたい?なまえの望むものを作ろう」

「チーズリゾットとか、食べたいかも」

「了解した。大人しく待っていたまえ」


少し面倒なものを食べたいと言ってもアーチャーは聞き入れてくれる。叱ってくれてもいいのになぁなんて、自分から言い出したのに。
そんなにお腹は減っていなかったはずなのに、ぐるると腹の虫が鳴る。思わずお腹を抑えて、早く出来ないかなぁと壁に体を預けた。
なんだろう。アーチャーのご飯を食べてから、もうずっと他のご飯を食べてない気がする。士郎くんのご飯とか、凛ちゃんの中華とか、ファストフードとか。文句なんてないけれど、というか健康面もきっちり考えて作られているアーチャーのご飯には文句のつけようもないけれど、ちょっぴり寂しくなる。久々に他のものを食べたいなぁと、自分勝手に思ってしまって。


「おなかすいたなぁ」


何だか無性にお腹が空いてしまってどうしようもない。ご飯早く出来ないかなぁ。アーチャーも早く作って傍にいてくれないかなぁ。お腹が空くとどうも人恋しくなって困る。うむむ、ご飯ができたら先ずはアーチャーにぎゅっと抱きしめてもらって、それからご飯を食べよう。きっと仕方ないなぁって笑って聞き入れてくれるはずだ。あとお願いごとをもう一つしてみよう。今日のアーチャーは何だか機嫌が良さそうだし。


「お待たせ、なまえ」

「ん」

「ん?…ああ、そうか。困った子だ」


テーブルに出来立てのチーズリゾットを置いて、両手で抱きしめてくれたアーチャーの体温はいつもより温かい。子供みたいだなと笑われても、気にしないことにした。ふふん、アーチャーだってお母さんみたいじゃないか。


「ね、アーチャー」

「うん?」


少しだけ表面を固くしたチーズへスプーンを差し込めば、中はとろりとしたチーズと熱々のご飯が混ざりあってとても美味しそうだ。掬いとったそれを口に入れる前にアーチャーへと顔を向ければ、何を言うのかと僅かに首を傾げている。


「外に出ちゃ、」

「駄目だ」

「…そっかぁ」


言い切る前に遮られてしまった。仕方なくご飯を食べ進めれば、アーチャーに頭を撫でられて目だけをそちらに向ける。何だかとても寂しそうな目をしていて。


「なまえはここに居ないといけない」

「いけないの」

「ああ。小さくて脆い、魔術も碌に使えない君が外になんて出てみろ。格好の餌食だ」

「餌食…。私、餌になっちゃうの」

「なってしまうな」


アーチャーが真剣な顔でそう言ってくるから、そうなんだなぁと納得してスプーンを咥える。それは嫌だなぁ、餌にされるなんて怖い。頭の中で私がお皿に盛り付けられて、目の前にギラついたフォークが迫って来る所まで考えて頭を横に振る。怖い怖い。震えが止まらなくなる。ん、さて、それでなんの話をしていたっけ。


「デザートにアイスがあるぞ」

「食べるー」


まあいいか。とにかくこのお腹の空き具合をどうにかしないといけない。アーチャーには悪いけど、何かもう一品作ってもらわないといけないなぁ。


□二周年記念



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