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▼ カラ松と待ち合わせ

普段よりも少しばかり可愛らしい服を着て、あまりいじらない髪をゆるく巻いて化粧も薄く施せば完璧だ。時計を見れば後10分ほどで約束の時間で、既に準備していたハンドバッグを片手に家を飛び出した。
せっかく整えた髪がダメにならないように、それでも足早に待ち合わせ場所へと向かう。気持ち的には最高だ。きっと驚きながらもいつも通りにくさいセリフを言ってくれるんだろう。顔を赤くして。容易にそんな光景が思い浮かんで一人小さく笑ってしまった。


「……いない?」


カラ松が好んでいる公園にある橋。そこが待ち合わせ場所になっていたはずなのだが、そこにカラ松の姿はなかった。いつもなら10分前からそわそわと落ち着きのない様子で待っているはずなのに。
首を傾げながらも初めての事態に少しだけ嬉しくなる。いつもカラ松を待たせてばかりいた私が、今日は待つがわに変わる。なるほど、確かに落ち着かないことが良く分かる。
今は何時だろうかと携帯を開いて、トークアプリに着信が入っているのに気付いた。慌てて開いてみれば、そこには『少しだけ遅れる』と謝っている人のスタンプが送られていて笑ってしまう。
『大丈夫』と『ゆっくりでいいよ』と送れば、すぐに既読がついて『わるいすぐいく』と一言。ひらがなの辺り、本当に急いでいるんだろうなぁと思ってしまって待ち遠しくなった。

カラ松も待っていた時はこんな気持ちだったのかなと思うと、くすぐったいようななんとも言えない気持ちになる。次に待ち合わせる時はカラ松よりも早く来ておこう。そんな考えになる程度には、この待ち時間が好きになった。


「……あ、」

「…あ、一松くんだよね?」

「そう。どーも」

「うん。こんにちは」


聞こえた低い声に顔を上げれば袋を片手にする一松くんがいた。小さく頭を下げる一松くんと同じように頭を下げて笑いかけると、少しだけ気まずそうにしながらキョロキョロとあたりを見回す。


「アイツいないの?」

「うん。ちょっと遅れるって」

「そう」

「一松くんは猫のご飯買いに行ってたの?」

「ん」

「そっかぁ。偉いねぇ」

「……別に、趣味みたいなもんだし、そんな事で偉いとか馬鹿じゃないの」


少しばかり早口で言い返してくる一松くんが袋へと視線を落とす。それでも短い髪の間から見える耳は少しだけ赤くなっているので嫌ではないんだろうと思う。
バタバタと忙しない小さい足音が聞こえて、振り返ると遠くの方から走ってくるカラ松の姿が見えた。ゆっくりでいいって言ったのになぁと思いながらも口元はへにゃりと弧を描いて気持ちがダダ漏れである。


「クソま…アイツも来たし、じゃあね」

「あ、うん。ありがとう一松くん」

「何もしてませんけど?」

「話し相手になってくれたでしょう」

「……その格好、似合ってるよ」

「!、ありがとう」


まさか一松くんに褒められるとは。仕返しなのかは分からないけどヤケクソ気味に言われた言葉は、それでもとても嬉しくて自然と笑みがこぼれる。一松くんは言ったあとすぐに背中を向け少しばかり早足で立ち去っていき、その背中を見送ってから振り返ればポカンとした顔でそこに立つカラ松の姿。


「お疲れ様、カラ松。5分の遅刻ね」

「あ、ああ。それはすまない。…今のは一松か?」

「そう。カラ松が来るまで話し相手になってくれてたんだ」

「そうか…。うん、ならいいんだ」


額に浮かぶ汗を笑いながらタオルで拭けば、どことなく安心したような顔をする。まったく浮気でも疑っているのだろうか。遅れた罰も兼ねてデコピンしてやれば、察したカラ松が額を抑えて「すまない」とまた謝る。こういう時だけは察しがいいのだからと内心呆れた。


「なまえ、なまえっ」

「はいはい、なぁに?」

「可愛い格好だな!」


満面の笑みでそう言われて笑ってしまう。だってそれは一松くんにも言われた言葉だ。流石六つ子。


「カラ松、二番目だ」

「ん?」

「一松くんが一番に言ってくれたんだ。似合うって」

「な、え、一松が…?」


きょとりとした後で怒るに怒れないと言ったような顔をする。弟に甘いだけあって、難しい顔をしてうんうん唸っているカラ松がとても面白い。
それでもその後すぐに肩をつかまれて、首を傾げればそっと触れるだけのキスをしてきて目を見開く。


「これは一番だろう」


真っ赤な顔でそう言ったカラ松が、本当に大好きだと実感した。


剋O万hit記念



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