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▼ 押しが強すぎる澤村

高校に入学して早々、男の先輩に目をつけられて視線で殺されそうな日常を送っている。パニック状態なんです助けてぇ!私が何をしたって言うんですか先輩!いや、心当たりはあるんですスミマセンっした!
入学式の当日、遅刻も欠席もしない私は少しばかり早く学校に着いたのである。真新しく私の青春を送る校舎の中には未だ部活動をする先輩達ばかりで、早く来すぎたと内心頭を抱えていた。とりあえず先生に笑われながら控えの教室て待つようにと言われたものの、その道中真っ黒なジャージを羽織る、何やら爽やか系の黒子が特徴的な男の人とちょっとだけ強面の男の人と擦れ違った。否。肩と肩がぶつかった。強面の男の人と。


「すすすすすみませっ」

「大丈夫大丈夫。大地はそんなんじゃ転ばねぇから気にすんな!」

「え、あ、本当にごめんなさ、ヒィッ」


爽やか系の男の人が気にするなと笑うけれど、ふと顔を上げたら物凄く睨まれていた。普通にちびるかと思った。慌てふためく私は金銭を巻き上げられると覚悟したものの、男の人は無言でその場を去って、爽やか系の男の人ももう一度こちらに気にするなと言ってから追いかけて行った。あ、ヤバイ死んだ。入学早々に私はとんでもない先輩に目をつけられ、きっとこれからエンジョイハイスクールは出来ないと絶望した。タイムリープはどこで使えますか。
そんな死にそうな入学式を終えた翌日。学校の校門前で再会を果たしたのである。誰にってあの強面の人だよ。ここで爽やか系の人と再会したって話が進まない。


「ひぃえっ!昨日はごめんなさい!肩砕けてませんか!」

「あー、ん?大丈夫だって。君と肩がぶつかったくらいで砕けるような貧弱な体はしてない」

「そっすか!あの、じゃあコレで!」

「待て待て待て」


急ぎ教室へと逃げようとした私の肩を背後から掴んだ男の人に、今度こそ死んだと短いながらも良い人生だったと噛み締めていればカラカラと笑う声。恐る恐る振り返ればやんわりと笑ったその人がいて、雰囲気が全く違うことに驚いた。


「俺、澤村大地って言うんだけど」

「あ、あの、なまえデス!覚えなくても大丈夫ですはい!」

「なまえちゃんな。よし、覚えた」

「ああああああ」


ただただ後悔した。覚えなくていいんですよ澤村パイセーン!何の変哲もないこの前まで中学生だったちんちくりんの名前なんて覚えなくていいんですよー!
それからはあっという間。澤村先輩とのエンカウント率がありえないくらいに多い多い。ふと気付いたら隣に居るなんて当たり前。


「彼氏とか、好きな人とかいる?」

「イマセン」

「そっか。なら俺が立候補しても問題ないよな?」

「ウィッス」

「…かぁわいいなぁ」

「何処で視力落としてきたんですか先輩」


力の抜けた笑みを向けられて引き攣り笑いが止まらない。何でこんな事になってるんだろうか。私も馬鹿じゃないから、澤村先輩が私に対して好意を持っているのは痛いほど分かる。なんでやねん。
私は澤村先輩に対して常日頃から怯えてるような姿しか見せてない気がする。もしや澤村先輩は怖がってる私を見るのが楽しいんだろうか。なんて悪趣味な。そうではないと思いたい。


「澤村先輩は、私のどこが好きなんですか?」

「んん?」

「その、私ちんちくりんですし」

「可愛いと思うよ」

「…頭もそんなに良くないですし、スタイルも顔だって清水先輩みたいに良くないし」

「うーん」


困ったような声で腕を組んだ澤村先輩を見て、ああやっぱり、悩むぐらいだから大した気持ちではなかったんだろうと思った。残念だとは思わないけど、何だか寂しい気持ちではある。複雑だなぁ。


「一目惚れだから、多分知れば知るほど好きになると思う」

「え」


照れくさそうに笑った澤村先輩が真っ直ぐにこちらを見ていて思わず息を呑む。うわ、ちゃんと見てなかったから今まで思いもしなかったけれど、強面ながらもカッコイイぞこの人。


「どこを見ても知っても幻滅なんてしないと思うし、きっとこれからもっと好きになる」

「う、」

「なまえちゃんの良さを皆が知る前に、俺が全部貰いたいんだ」

「うう、」

「…独り占めしたいってやつだな」


笑う澤村先輩に顔が真っ赤になるのが分かる。なんて恥ずかしい事を言ってのける人なんだろうか。今すぐにでも叫びだしたい衝動に駆られるも、顔面を手で覆い隠したい気持ちの方が強過ぎて何も言葉に出来ない。悶絶である。


「だからちゃんとした理由がないと俺は諦めない」

「ううぅぅぅ」

「照れ屋な所も可愛いよ」


頭を撫でてくる澤村先輩に勝ち目が無い。というか既に心臓が驚くほど騒いでいる時点で、私の負けなんて目に見えていた。


□二周年記念



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