▼ ザップは素直になれない
「よぉぉぉ、ビッチ女。今暇だろ暇だよな暇じゃ無かったら可笑しいよなぁ?よぉーし!お前は暇だ!」
「消えてくれないかしらクソ猿」
出社早々うざったらしい絡み方で肩に手を伸ばしてきたクソ猿を踏み潰した。兄さんには無駄な能力は極力控えるようにと言われているけど、こういった品のない態度に遠慮はいらないと思う。否。いらない。
カチカチに凍ったザップの額を指でついて床に転がしてやれば、後から入ってきたレオが呆れたようにそれを見る。
「おはようございます、なまえさん」
「おはようレオ。スティーブンが呼んでたわよ」
「ザップさんもですよね?」
「No problem.後で貴方が伝えればいいの」
見慣れた光景になったらしいレオが小さく笑って分かりましたと横を通り抜ける。
スティーブン・A・スターフェイズとは、私の上司にあたる男であり、同じ血凍道を持つものであり、そして血の繋がった実の兄である。性格は似ている方ではあるものの、顔はびっくりするぐらい似てない。共通点といえば黒髪スーツと言った所だけ。
ザップが早々にこちらに絡んで来たのには、恐らくクラウスにこてんぱんに伸された後だからだろう。
凍ったザップの上をチェインが躊躇いもなく踏んで、少し乱れた髪を整えてからひらりと手を振った。
「おはよう、なまえ。コレ、また何かやらかしたの?」
「おはよう、チェイン。大したことはされてないわ。昨日までの報告書を提出もせず遊び呆けて、私が自分の仕事を置いて、代わりに日を跨いでやってあげたにも関わらず暇そうだなと言われた程度よ」
「死ねばいいのに」
絶対零度の視線でザップを見るチェインに笑っていれば、能力が解けたらしいザップが勢いよく起き上がる。その拍子にチェインも存在を希釈して私の肩へと飛び移る。猫に懐かれたみたいだと笑いつつ、先程から睨みつけてくるザップへと視線を戻した。
「暇だったら何かあったの?」
「べっつにぃ〜?」
「…手短に話すなら一日ソルベは許してあげるけれど」
「甘いよなまえ。コイツのマグナム(笑)を二度と使えないようにするべき」
「やだ、チェインったら…名案?」
「人様の生殖機能を潰すとか何考えてんだクソ犬」
品の欠片もない言葉に、舌を出して消えたチェインを見送ってから纏めた書類をザップに突き出す。ぐっと不満そうに眉を顰めて奪い取った態度にため息をこぼす。やってあげたのだから感謝の一つぐらい欲しいものだ。期待なんてしてなかったけれど。
「もう、ザップ」
「…」
「拗ねてるだけじゃ分からないわよ」
「拗ねてねぇしっ」
膝を立てていじけるザップに呆れつつも、傍に座り顔を覗き込めばじとりと恨みがましくこちらを見る。今日は随分と面倒くさいいじけ方をしている。
「なぁに?」
「…その」
「ん?」
「……っ、レオーッ!!!」
突然大声をあげたかと思えばスティーブンとレオが話しているだろう部屋へと飛び込んで行った。よく分からないが元気になったなら良かったと少し無理矢理だが自身を納得させる。ザップの意味不明な行動は今に始まったことじゃない。
「KK、チェイン。食事に行かない?」
「イタリアンがいい」
「あら、なら私いい所を見つけたわよ!」
暇をしていたらしいKKとチェインを捕まえた。意気揚々と準備を始めたKKを眺めていれば、チェインに肩を叩かれた。大変だねと言われたけれどそれは一体どういう意味だろうか。
「ザァァァップ。お前、僕のなまえに遊び半分、いやちょっとでも僕のなまえで遊んだらソルベにしてやるからな」
「過保護な上にシスコンとか嫌われるっすよ番頭」
「ハッ!残念だったな。僕となまえは両想いだ!」
「スティーブンさん、寝て下さい」
スティーブンとザップとレオがそんな会話を交わしていた事を、後からクラウスから知ることになる。愛されていますねとギルベルトさんに言われたけど、いい歳こいたシスコンは勘弁願いたい。ザップも無駄にスティーブンを煽らないでほしい。
□二周年記念