▼ カルデア職員は動じない
人類最後のマスターである藤丸立花という少年は、カルデアの職員やサーヴァントから大切にされている。私もそのカルデア職員の一人であるのだが、最近その立花君のサーヴァントに日々困らされているのだ。え、私みたいな職員知らない?当たり前でしょう。私のようなモブ職員に焦点が当てられる日がくると思ったら大間違いだ。メインストーリーは立花君担当なのだから。
「おかーさん?」
「ああ、そうだ。アンタの母親で、俺の女だ。覚えたか?」
「違います。ジャックに変なことを教えないでください、金時さん」
「いいじゃねぇか。こいつの機嫌取りにはサイコーだろ?」
「それなら立花君…は無理でも、マシュに変えてくださいよ。私は子供を産んだ覚えはないですしおすし」
ジャックを腕に抱えてこちらを指さすライダークラスの坂田金時に、呆れつつしっかりと否定する。首を傾げさせるジャックの頭を撫でて、ため息をこぼしても金時さんは笑うだけ。
「ご機嫌ようなまえ、サンソンとの式の日取りは決まったかしら?」
「マリー、僕は式は上げないと何度言ったら…」
「こんにちはマリー。式も何もお付き合いもしてないです」
ふわりとスカートを揺らして優雅に挨拶をしてきたマリーの背後で、額を抑えてため息をこぼすサンソン。式とかそれ以前に相手は子持ちです。浮気ダメ絶対。
「よう、なまえじゃないか!アタシの船に乗る決心はついたかい?」
「有難いお言葉ですけど遠慮しときます。今後とも立花君のために皆の再臨素材集めに協力お願いします」
「もっとこう、燃えるような冒険がしたいんだけどねぇ」
「それならこちらがオススメです。修練場に新たなクエストが三つも!マスター立花君とどうぞ腕試しに出ては?」
「いよぉしっ!マスター!冒険と行こうじゃないか!」
快活に笑って立花君を探すドレイクさんの背中を眺めながら、談話室でサーヴァント達と話しこんでいた立花君に向けて合掌。上手いことドレイクさんの言葉を躱すにはこの手しかなかったんだ、ごめんなさい。
サーヴァントといっても中々フレンドリーな人たちが多すぎて相手をするのにも疲れる。私自身あまり人と話さないからというのもあるからだろうけど、成程みんな気を使ってくれているのかな。
書類片手に廊下を歩いていれば、後ろから背中目掛けて何かが引っ付いてくる感触。程よく大きいその物体を私は知っている。何でバレンタインイベントのアナタが平気でそこらを歩き回ってるのか。
「おはようございます、ミニクーさん」
「…」
「チー鱈ならこちらにあるんで肩の方に来て頂けますか?」
「りょーかい」
ずりずりと服をよじ登るミニクーさんがひょっこりと肩から顔を見せた。腰にさげた鞄からチー鱈を差し出せば口を大きく開けて齧り付く。何もされなければ可愛らしい子なのに、暇になったりしたら指を噛んだり人の服で巣作りを始めたりするのはどうかと思う。
ただこのミニクーさん、私の中で物凄く頼りになる人(人形?)なのだ。
「よお、なまえ。今日も相変わらず世話役ご苦労さん」
「積極的に貴方に押し付けていこうと思っているんですが如何でしょう?」
「何が悲しくてオレの面倒を俺が見なきゃいけねぇんだよ。どうせならなまえの面倒の方が見たいわ」
「ハハッ、冗談」
「だと思うか?」
キャスターのクーフーリンは立花君を支えてくれる古参であり、カルデア職員からも頼りにされている英霊の一人だ。ランサーの彼と比べて見ればかなり性格を丸くしたような人で、けれどもそこは流石クーフーリンと言うべきか、女性スタッフへの口説きようといったら凄い。私にも声をかけてくるなんてクーフーリンは節操無しなのか。頭の中で麻婆神父が嗤いながら自害せよと言ってる気がする。貴方の出番はいつ来るんでしょうかねぇ。
真っ赤な目を細めさせて伸ばしてきた手を避けることもせず見ていれば、瞬く間に肩から飛んだミニクーさんがその手を刺した。本来のものよりかなり小さい槍とはいえ結構ぶっすり刺した気がする。
「いってぇ!」
「触るなオレのだ」
「私ミニクーさんのものになった覚えはないんですけど」
「オレのもんだったら俺のもんでもあるだろ」
「刺し殺す」
この様に。私にちょっかいをかける悉くをミニクーさんが退けてくれるのだ。己の元となったクーフーリンに対しては更に容赦なく槍を振るう。小さいからと侮ることなかれ。スピードはランサークラスの二人と同等、もしくはそれ以上である。流石モデルがバーサーカークラスのお方。性格思考をほんの少し丸くして、小さくしたのがこのミニクーさんという事である。しかし殺傷能力が低過ぎてサーヴァント達とは張り合えないのが難点といったところか。ダヴィンチちゃんがそれをカバーするような装備を作っていたのには目を瞑ることにする。才能の無駄遣いはやめて頂きたい。
「私としては助けてくれるから嬉しいんですけど、でもやっぱりミニクーさんには立花君の護衛をですね」
「断る」
「ええ、即答…」
「マスターには必要ねぇだろ。アレの傍には盾の嬢ちゃんだとかストーカー女だとかがついてるしな」
「流石立花君。エミヤさんも憐れむ程の女難の相を持ってるだけはありますね」
「つか早くコイツ何とかしろよ。俺の腕が穴だらけになる」
ぶっすぶっすと朱槍を刺しているミニクーさんの両脇に手を入れて抱き上げる。不満そうな顔だけれど大人しくそこに収まってくれるのでチー鱈をあげておいた。なかなか痛そうな腕を摩るキャスターさんには、ちゃんと医務室に行くように伝えて別れる。
書類を片手に、もう片方の手でどうやら眠りこけてしまったミニクーさんを抱えて自室へと向かった。
「ミニクーさん、立花君の部屋じゃなくても大丈夫ですか?」
「…ん」
「起きたら食べたいものとかありますか?」
「…なまえ」
「食べ物でお願いします」
というか何でミニクーさんの世話係が私になってるんだろうか。あと私もミニクーさんの傍でうたた寝してたら、オルタの方の彼も隣で寝てたんですけど何でしょうかこの状況は。メイヴさんに殺される前に立花君ヘルプミー。
□二周年記念