▼ 月雄さんが一目惚れ
「店のヤツらに危害を加えられたくなかったら俺と一緒に来てもらおうか」
「どこまでもお供しますうううう」
突然現れたスーパー金髪イケメンは、私が働く甘味屋の前でお盆をさげた私に向かってそう告げた。適当にあしらえばいいとかって思っているだろうけどそんな事じゃないんだ。この人笑いながらチラチラとクナイを見せびらかしてくるんだ。顔に傷があるし、本物っぽくてヤバイ。この人、やばい匂いがプンプンする。いや実際に匂いは関係ないんだけど。むしろいい匂いする気がする。
お店の人に挨拶する間も与えず、金髪さんに連れてこられたのは、聞いて驚け見て戦け。遊女達が華やかに生きる場所、吉原桃源郷である。
「…」
「アンタには俺の店で働いてもらう」
「いやあの、え、私」
「口答えか?」
「お手柔らかにお願いしますううううう」
待って。私はその、体を売るようなお仕事してない上に未経験なんですが。何でこうなったの?私何かした?金髪さんを怒らせるようなことした?いやいやいやしてないよー。私と金髪さんはただの店員とお客さんだったはずなんだよー。何で私こんなところに来て脅されるような形で体を売りにこなくちゃいけないの。泣きそうだ。多分これ断ったり嫌がる素振りしたら殺されるんだ。やばい私の人生はここまでなのか。
「働いてもらうとは言ったが、人前には出なくていい。店にいろ」
「え、それ働いてないんじゃ」
「いいな?」
「了解致しました!」
お兄さんめっちゃ怖い。口を挟んだら睨まれちゃったよ。ちょっと何でこんなことになったんだろうか、ホントに泣きそう。
もの凄く豪華絢爛な、見上げるのにも首が痛くなる高い建物。明らかにそういった場所です本当にありがとうございました。あれよあれよと手を引かれてやって来たのは恐らくこの建物の最上階。泡吹いて倒れられたらどんなに楽だったか。
「ここが今日からアンタの家だ。言いたいことは?」
「…あの、あの、ここで働くってことは、その源氏名みたいなものが必要です?」
「いらん。アンタの名はそのまま呼ぶ。なまえだろう」
「え、なんで名前…あああ合ってます合ってます!そそそその、お兄さんの名前は?」
「……月雄だ」
何でお兄さんが名前を知ってるのかは聞いてはいけないことらしい。さっきの比じゃ無いぐらいに睨まれてしまった。名前まで知られているなんて…恐ろしい。多分これ家族構成とかも全部調査済みだったりするのかな?何それ助けて。真選組仕事して。そんなだから税金泥棒とか、よくお店に来てくれるチャイナ少女に罵られるんだよ。
「月雄さん、ですか。あ、はい、覚えました!覚えましたんでもう大丈夫です!はい!」
「そうか」
「はい!」
「…今日はもう休んでいい」
「了解致しました!」
月雄さんが部屋から出て行って数秒後、私はどうやってこの建物から逃げようかという脱出計画を練るのだった。私の初めては好きな人がいいです!知らないオジサンとかお兄さんとかそんなんの相手できない!月雄さんの手に引かれてたけど大体の地形は覚えて、地形くらい…地形…。リアルでorz状態になるとは思わなかった。この建物広すぎるにも程がある。
「帰りたい…」
私が泣きそうになっているのと同時刻「日輪ァァァァ!」と大の男が半泣きで吉原一の太夫に助けを求めていた事なんて知りもしなかった。
□二周年記念