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▼ 手加減しない赤弓。続

普段からアーチャーに料理を教えて貰っているのだが、集合場所が時折士郎くんの家だったりする。アーチャーが言うには凛ちゃんの口実にとても使えるらしい。成程、凛ちゃんそういうことね!納得して笑顔を向けたら真っ赤な顔で違う!と叫ばれた。恋する女の子は可愛いもので、バカとかノロマとか幾ら罵られようがついつい微笑ましく思ってしまうので傷なんてつかない。


「士郎くんの家は不思議なものしか置いてない…」

「…私としては得でしかないが」

「んん?」

「気にするな」


お料理教室として台所を借りているお礼にと、士郎くんの家の蔵の掃除でもしようかとアーチャーと中に入ったものはいいものの、まさかこんなトラップが用意してあるとは思わなかった。人が二人入れるかギリギリの大きさの真っ白な箱が蔵の奥深くに眠っていて、好奇心でそれに手をつけたら黒い影のようなものが私の腕を掴んでその中へと引っ張りこまれたのだ。咄嗟に手を伸ばしてくれたアーチャーも、巻き込まれる形で箱の中。私は小柄な方だからいいものの、恰幅の良いアーチャーはそれはもう見て分かる程に窮屈そうだった。


「ほんのり魔力の気配がしたから、多分この箱に呪いか何か掛けられてたんだと思う」

「迂闊なものに触るなとあれほど言ったんだがな…」

「まさかこんなのあるとは思わなかったから」


笑って誤魔化しながらアーチャーから自然に視線を逸らす。幾ら見慣れていると言っても、こんなに間近でアーチャーの顔を見たことなんてなかった。その、アーチャーってカッコイイしずっと見てたら何か分からないけど照れが勝ってしまう。
背中を丸めて座るアーチャーの足の間で、見上げるような形でアーチャーの胸板を借りているという体勢。顔とか直ぐそこにあって、正直物凄く恥ずかしい。箱の天井や壁をサーヴァントである彼がいくら押しても開かないというこの状況。早く誰か助けてくれないと恥ずかしさで爆発しそうだ。


「ひゃっ」

「すまない。少しキツイかもしれないが我慢してくれ」


腰を抱かれて更に密着した距離に何事かと思えば、アーチャーが足で私の背後の壁を蹴破ろうとしていて、何だか私だけ変に気を使っていて余計に恥ずかしくなる。アーチャーは一生懸命脱出する方法を考えているのに私ときたらっ!


「ごめんなさいアーチャー」

「い、いきなりどうした?」

「私も頑張って脱出のお手伝いする!」

「いや、なまえはそのまま動かないでいてくれると助かるんだが」

「わ、私じゃ確かに頼りないかもしれないけど、でもお手伝いぐらいは…」

「違う、そうじゃないっ。こら、動くなっ」


少しだけ焦ったようなアーチャーを無視して後ろ足のまま壁を蹴ってみるもビクともしない。そりゃサーヴァントと比べてしまうとどうやっても敵わないけれど、凛ちゃんに教えてもらった強化の魔術を脚部へと行使する。いざ勢いをつけて蹴破ろうとした瞬間に足を撫でられて思わず声が出て、行使した魔術は消失した。


「ああああアーチャー!?」

「…なまえは無意識なんだろうが、君が動く度に、その、手が際どいところにだな」

「あ、ええええっ!?」

「まあ、据え膳なら喜んで頂くんだが」


離れた所で距離がそう変わるはずもなく、アーチャーがすぐに私の手を捉えて顔を近付けて来る。そんなつもりは無かったんですううううと幾ら心の内で叫んでも届くはずもない。耳に息を吹きかけられて体が震えた。楽しそうに笑うアーチャーの低い音に泣きそうになる。


「なに、悪いようにはしないさ」

「あああああのっ」

「それにここではしない。直ぐそこに迎えが来ているからな」


その言葉に顔を上げれば柔らかく笑ったアーチャーがいて、でもその目が明らかに熱を孕んでいて心臓が妙にざわついた。ガタリと音がしてアーチャーの頭上から光が差し込んだ。


「ようやく見つけたわ。アーチャー、なまえに変なことしてないでしょうね」

「先ずは無事を確認するところだと思うんだが」


凛ちゃんの少しだけ怒ったような顔が見えて、アーチャーが呆れたように肩を竦めてみせる。いつも通りの彼に手を引かれて箱から出てくれば、凛ちゃんの背後で士郎くんが安心したような顔をしていた。


「なまえも無事でよかったわ」

「凛ちゃんんんんん」

「…ホントに何もしてないんでしょうね?」

「あんな所で手を出すほど、私は落ちぶれていない」

「とにかくその箱、さっさと壊しちまおう」


士郎くんの言葉に頷いた凛ちゃんが容易く箱を燃やしてくれた。後から士郎くんに聞いたけどあんな箱は見たことないと首を傾げていて、一体誰があんな箱を仕掛けたのかと震える。それから暫くアーチャーの顔がまともに見れなくて困った。アーチャーはきっと変に緊張していた私を心配しての事だったのだろうに、私ときたら本当に情けなさ過ぎて泣きそうだ。


□二周年記念



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