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▼ ゾルディック家末妹は家出する

最近お父さんの干渉がえげつない。これが驚く事に私の勘違いとかじゃないのだ。どこで何をしているとか、誰といるとか、いつ戻って来るとか。いや、分かる。お父さんからしたら大事な娘だもんね。分かるよ。お父さんになったことないけど、私が飼ってるパピヨン一世が嫁に行くってなったらそりゃもう泣きたくなるぐらい悲しいもんね。それと一緒でしょ。ちなみにパピヨン一世はハムスターだ。でも流石に私が買ったものを漁って何を購入したかまで確認することはないと思う。


「下着買ってたらお父さんどうするつもりなんだろ」

「それを兄貴の俺に言うなまえはホントに追い込まれてたんだな」

「こんな所にまで家出するぐらいだから、そこまで追い込まれてたんだよ兄ちゃん」


スケートボードに乗るキルア兄ちゃんの隣を、ローラースケートで走る私。キルア兄ちゃんが何処かに行くのを見た私は、兄ちゃんの後を追ってハンター試験所まで来てしまっていた。厳しい試験だとか何とか。でもいいんだ。ちょっと最近のお父さんの行動は目に余るものがあるし、お母さんもすこーしだけ呆れたような顔してた気がするから。そろそろ娘離れの時期だよお父さん。娘は知らずに大人になるもんなんだよ。だからスポーツブラ見たぐらいで喚かないでほしい。何でスポーツブラが急に色気づいてるとかそんな発想になるの。男なんてお父さんに紹介する前にイルミ兄ちゃんに殺されるよ。ひえええ、私結婚できるのかな。


「せめて結婚式は平穏なものにしたい」

「相手の血で式場全部真っ赤に染め上げてやるからな」

「ブルータス、お前もか」

「誰だ?男?殺す?」

「キルア兄ちゃんも物騒な思考の持ち主だった」


私のお婿さんになる人は大変だなぁ。兄弟の手を躱して、そこからお父さんからも逃げないといけないなんて。まだ見ぬ未来のお婿さんに向けて合掌。
そんなこんなで愚痴を吐きつつ、キルア兄ちゃんの過保護を上手く交わしつつ無事についた試験会場。なんて言うか、むさくるしい男の人達ばっかで気分が悪くなるね。キルア兄ちゃんの背中から離れないようにと服を掴んでいれば、払われて手を握られた。払うことは無かったんじゃないの。


「わあ、いろんな人いっぱいだし、何だろ?酸っぱい匂いするね」

「…大人になりたくないと初めて思ったわ」

「え?何で?」

「なまえから臭いとか言われたら俺もう死にたくなる」

「キルア兄ちゃんいい匂いだよ!死んじゃダメだよ!」


周囲から鼻につくツンとしたよく分からない酸っぱい匂い。キルア兄ちゃんは何かを憐れむような、悲しそうな、そんな風に複雑そうに目を細めている。周りの人達が体を匂い始めたけど何してるのかな?身体中にスプレーふってる人もいるけど何してるのかな?


「見て!顔に針いっぱい刺さってる!」

「あー、もー、なまえは大人しくここにいろ。いいな?俺が帰ってくるまでここにいろよ?変なやつに声掛けられたら遠慮なく殺していいから」

「合点」


初めて見る人の多さに声が大きくなるも、キルア兄ちゃんが少しだけ怒ったふうに指を突きつけてくるので大人しく黙り込む。大きく頷けばキルア兄ちゃんは私の頭を撫でてさっさと何処かへ行ってしまう。寂しい。
隅の方で体育座りして待っていれば、顔中に針を刺した男の人が目の前に立っていてつい威嚇してしまった。なんだコノヤロー!


「チビだからって馬鹿にするなよー!将来バインバインの美女になるんだからなー!」

「なまえは今でも十分に可愛いからそれ以上可愛くならなくていいよ」

「…イルミ兄ちゃん?」

「あは、バレちゃった」


ガッと体を担がれてキルア兄ちゃんを呼ぶ前に、顔も体も全然違うイルミ兄ちゃんはそこから走り出す。ちょっと待って私がキルア兄ちゃんに怒られる。
顔から針を抜いたそれが本物のイルミ兄ちゃんに変わったことに唖然。痛くないの兄ちゃん?大丈夫?顔から血が出てないから大丈夫?だよね?


「父さんからなまえを見つけたら連れ戻してくれって言われてるんだけど、何かしたの?」

「お父さんが謝るまで家には帰らない!」

「帰らないと向こうも謝れないでしょ。なまえ、甘いもの食べたくない?」

「私がいつまでも食べ物でつられると思うなー!みたらし団子食べたい!」

「ねえイルミ、その子だぁれ?」


私と目を合わせるようにしゃがむイルミ兄ちゃんが、頭を撫でるのをやめない。ふんっ、私の頭も暇してたから存分に撫でればいいと思う。良い撫で心地だ!
イルミ兄ちゃんの背後からひょっこりと顔を出した、頬にペイントを塗った男の人に悲鳴をあげそうになった。にっこりと笑ってるけど、私ピエロとか苦手なんだよね。怖いから。
ピエロから逃げるようにイルミ兄ちゃんに張り付けば、イルミ兄ちゃんがため息をこぼして振り返る。


「お前に教えたら面倒なことに巻き込むから教えない」

「ええー、信用ないなぁ。ね、お兄さんに君の名前教えてくれないかい?」

「えっと、あの、私、」

「コラ」

「教えてやんない!」


文字にしたら可愛く怒ってるように見えるでしょ?イルミ兄ちゃんに限ってそんなことは全然無かった。たった二文字なのに凄い威圧があったよ。ぎゅっとイルミ兄ちゃんにしがみついていたら、頭を撫でられてほんの少しだけ肩の力が抜ける。


「イルミ邪魔しないでよ」

「変な虫がくっつこうとしたら僕としては止めるでしょ。ましてやお前だったら特に。虫は虫でも害のつくものだしね」

「お兄さん害があるの!?」

「そうだよ。なまえが迂闊に近づくと感染するから絶対に近付かないようにね」

「合点!」

「合点じゃないよ。そんなの無いってば」


拗ねたように膨れっ面を見せるピエロはお世辞にも可愛いとは思えない。ただただ怖い。イルミ兄ちゃんが察してくれて抱っこしてくれた。兄ちゃん私に甘過ぎだと思う。


「いい?キルアには俺が来てることは言わないでよ」

「どうして?」

「驚かせたいから」

「分かった!任せて!」

「ねー、僕にもその子と話させてよー」

「黙れ変態なまえに近付くな」


イルミ兄ちゃん辛辣だけど、何とも思ってなさそうにニヤニヤ笑ってこちらを見下ろしてくるピエロはやっぱり怖い。何で笑ってんのこのピエロ怖。
キルア兄ちゃんを探しに戻れば物凄い怒られた。私が悪いんじゃないのに。解せぬ。


□二周年記念



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