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▼ 忍足は跡部に勝てない

「なまえちゃんキーック」

「アカンてなまえちゃん!足上げても俺を魅了することしかできへんで!」

「忍足が何言ってんのかぜーんぜん分かんなーい」


金持ち学校と言えどもそれなりにイジメなんてゆーものはある訳で。というより金持ちだからこそイジメがある。言うなれば格差だ。私の家よりもあの子の家は位が下だの、俺の家はあそこの家より下だからあそこには媚を売ろうだの、正直面倒くさい事ばかりだ。だのに面倒事は私を好いてるのかしつこい程に付き纏ってくる。
上位クラスだろうお嬢様方が下位クラスだろうお嬢様をイジメているのに出会した。胸糞悪くなったから思わず足が出た。ライダーキックとはいかないが、背後からその背中を軽く蹴った程度。大袈裟に前につんのめって転けたお嬢様とその付き添いは、文句を言おうとして私だと認識した途端悲鳴と共に去って行った。失礼過ぎやしないか。
とりあえず何処からか現れた忍足を無視して、震えているお嬢様に手を差し出す。思いっきりビクッてなったのが分かった。それもそうか。


「だいじょうぶ?」

「あ、えと、…ありがとうございます」

「ん」


深々と礼をする女の子に気をつけてねと手を振ってその背中を見送る。ニヤニヤと口元を緩めている忍足が視界の端に写って気分が悪くなった。何なのコイツ。どんだけ私に嫌われたら気が済むのか。


「ええー、好きになってもらうまで離れへんよ」

「うっざぁい。跡部並にいい男になって出直してきて」

「もー、惚気んといてぇな」


廊下を歩く私の後ろを付いて来る忍足。前までは忍足に恐喝でもしたのかと噂になってたらしいけど忍足自身が否定したらしい。「俺が好きな子に付いて行ってるだけなんやで」とか何とか。勘弁して欲しい。ただでさえ不良のレッテルを貼られてるのに、余計な付属品も加えられそうで嫌になる。これなら跡部との噂が出回る方が良かった。


「なまえちゃんヒーローみたいやったなぁ」

「あーいうの見てて気分悪くならない?」

「もう何遍も見てるしなぁ」

「やめさせないの?」

「俺が言うてもやめへんやん。寧ろ火に油注ぐだけや思うで?」

「…あっそ」


この男、言外にしかも遠回しに自分がモテていると言ってやがる。なんて腹の立つ野郎なんだ。その顔面にテニスボールぶつけてやりたい。跡部が前言ってたみたいに磔にして的にしたらいいと思う。
大きくため息をついて落ち着かせる。跡部ならあの大き過ぎる態度であんな事はやめさせるだろう。それが一時しのぎになっても、跡部はマークして何度でもやめさせる筈だ。そこが好き。見込違いなんてある訳が無い。跡部が自分の領域の中でそんな馬鹿げた事柄を容認する事なんてないのだ。私の彼氏自慢は留まる事を知らない。というか自慢出来るところが多すぎて何から話せばいいやら分からない。


「なまえ」

「跡部」

「最近跡部が俺に冷たい事が増えてきたんやけど」

「当たり前だろ。自分の女を追っかけ回してる男を快く受け入れるとでも思ってんのか、アーン?」

「受け入れんでええから俺にちょーだい」

「戯れ言は夢ん中でしてろ」


どうどう。跡部の最近の忍足嫌いは半端ない。私が関わってるからどうしようもないんだけど、というかどうにかしようとしても忍足が引っ付いてくるのだ。ストーカーかお前は。好きと言われて断り続けても諦めないし、どうしろと言うのか。いっその事暴力に訴えてみても…、駄目だコイツ脚フェチなんだった。詰んでる。
廊下でひと悶着ありそうな二人を、急いで跡部の城でもある生徒会室まで引っ張り込む。頼むから人目を気にしてほしい。跡部の腕を掴んで、忍足は勝手に付いてきたからもうどうでもいい。こんだけあしらわれてんのに未だ好きとか頭のネジぶっ飛んでんじゃないのか。


「変な噂立つぐらいなら跡部との噂が出回った方が良かった」

「変な噂やなんてそんなツレん事言わんといてぇな。俺となまえちゃんの仲やん?」

「忍足と知り合い以上の仲になった覚えない」

「それ以上の仲になったら俺が許さねぇよ」


やったね忍足、友達にすらなれないってよ。残念そうな顔で、しかも自然と手を繋いでこようとするからコイツのやばさは本当、口に出来ないほどだと思う。その手を払い除けながら跡部も苦労してるんだろうなぁと内心ため息。労る気持ちを込めて背の高い跡部の頭に手を伸ばす。察して屈んでくれる跡部に抱きつきたくなったが、我慢して頭を撫でる事に専念した。やめろ。嬉しそうに微笑むな。惚れる。


「ホンマになまえちゃんが跡部と別れるのどーすればええん?」

「跡部が飽きるまでは、跡部の彼女でいたいんだけど」

「そこは縋ってでも俺と居たいぐらいの根性見せろ」


軽く頭を小突かれてへらりと笑う。どうせ跡部に相応しいお嬢様が現れるまでの間までだろうし、跡部も直ぐにそっちに傾くだろうからなぁ。身の程は弁えてますっていうか。まあそんな女子が現れるまでは跡部の傍にいたいし、別れたとしても多分すぐに諦めなんてつくわけないから、暫くは跡部を好きなままでいさせて欲しい。忍足は保留。とりあえずそのストーカー気味の性格直してくれなきゃ無理。


「つまり跡部がなまえちゃんを振ってくれれば俺が貰ってもええっちゅーことやね」

「テメェの思考回路どーなってんだ殺すぞ。なまえは死んでも離さねぇからな」

「ヤンデレ発言はいくら跡部でもお断りデース。あと前の話を掘り返すんなら引き取り手がなくなったらって条件が出てくるからね忍足」

「正直な話。跡部も婚約者とかそんな候補出てきてんちゃうのー?」


思わず息が止まる。そりゃ覚悟はしてたけど、いきなりそんな話をぶっ込んでくるとはやってくれるじゃないか。何も言わずに跡部を見れば、何言ってんだこいつみたいな呆れた顔してた。


「いるにはいる」

「…ホンマにおるんや」

「そんな奴勝手にごろごろ出てくる」

「跡部家的にはなまえちゃんよりそっちとくっついて欲しいんちゃうん?」

「だろうな」


あ、ヤバイな泣きそう。ぐっと内頬を噛んで耐える。意外にショックだなコレ。というかそんな現彼女の目の前で話さなくてもいいんじゃないのかなぁ。そりゃ不良の枠組みに入る私と比べたらそっちのお嬢様の方が体裁は良いだろう。当たり前の事だけど遠回しに振られてるみたいで辛い。
大きなため息とともに伸ばされた手が頬を滑る。


「俺が選んだのはなまえだ」

「……」

「お前がどう思ってんのか知らねぇけどな、そう易々と逃げられると思うなよ」

「……跡部って結構恥ずかしい奴だよね」

「なら下らねぇ事考えんな。お前が言わせてんだよ」


頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。特に整えてもなかったから別に良かったし、ニヤけそうになる口元を隠せられるしでグッジョブ跡部。


「俺が付け入る隙は?」

「あると思ってんのか」


この状況で口を挟んでくる忍足の図太さは凄いと思う。関心はするけどやっぱり好きにはなれそうにない。


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