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▼ 黒尾が伏兵の赤葦を打倒した

熱に侵された私が完全復活を遂げたのは、黒尾のあの衝撃のデレ事件から二日立った頃である。復活したのは日曜日だった。辛い。休み前日からテンションが馬鹿みたいに上がる私にとって、金曜日から土曜日にかけてを布団の上で過ごしたなんて死ぬほど苦痛だった。その間イケメン(男前でも可)を見れないのは本当に心が折れた。天気共々晴れやかな日曜日をあんなにも憂鬱な気分で迎えたのは人生初だと思う。基本的にイケメン俳優のドラマなりを見て過ごす休日を送っているのだが。これがまたなかなかいいもので、学校では有り得ないだろうキュンキュンするシーンとか見るともう鼻血ものだ。実際垂れたことは一度や二度ではない。


「なまえ、何その額。笑わせにきてる?」

「聞いてくれるのか友人A!」

「失礼極まりない呼び方だけど敢えて無視するよ。どうしたの?」


月曜日。かのイケメン女子友人Aが、学校に来た私の顔を見て風邪の心配をするでもなく額を見て声をかけてきた。まあ正直労られるのはむず痒い気しかしないからその行為はありがたい。一部分だけ赤くなってるだろう額に、友人Aのお昼のおやつだと言う冷えたミカンを押し付けられた。冷たい。ひんやりしてて気持ちいい。
日曜日の夜はマミーとの格闘の末早く寝ろ攻撃に敗れて規則正し過ぎる21時に就寝した。そして今日5時半過ぎに目は覚めた。過去最高に目覚めのいい起床だったと思う。家でゴロゴロしながら学校へ行く時間を何時にしようかと悩んでいたら、見兼ねたパピーに早く行ってイケメン補充して来なさいと背中を押されたのが7時前。家のマミーとパピーは私のイケメン好きな性格をちゃんと理解してくれている優しい夫婦なのだ。私の扱いが雑なのが玉に瑕だけれど。まあともかく、いつもよりも格段に早い時間帯に学校へ着いた。朝練中の野球部やサッカー部員達がわんさかいて、ひゃー!カッケェー!とグランドを見ながら一人で誰もいない廊下で悶えてたんだけど、ふと気付いたんだ。黒尾との約束どうなったっけなと。結局次の日に学校に行けずに約束を破ってしまったんだけども、気になったから体育館へ向かってみた訳だ。バレー部が朝練あるのは知ってたから。邪魔するのだけは私のイケメンプロ意識に反するからコソッと見に行ったんだけどバレたんだよね。あっさり。丁度扉側を向いて後輩っぽい可愛い系の男子部員に指導してた黒尾に、扉から顔だした瞬間にバレた。慌てて逃げようとしたらそれはもう黒尾は光にもなれるのかと言わんばかりの速さで腕掴まれて、まあまあ強めのデコピンを貰ったんだよ。「約束破った罰な」って言って笑う黒尾を見て思ったんだ。


「もう…イケメンしんどい…って」

「あ、このグミ貰うよ」

「Are you listening?」


話が長かったのは謝るけど、勝手に人の鞄漁ってグミを強奪するとは何て女だ。ごめんごめんと私の頭をポンポンして宥めにくる友人Aがどれだけイケメンに見えようと…畜生許す。イケメンは私の中では国宝モンなんだ。
まあ、つまり黒尾からのデコピンによって私の額は赤くなってる訳だけど。嬉しいけど恥ずかしいな。なんだろこの気持ち。たはー!嬉し恥ずかしい!開き直っても恥ずかしいのは消えなかった。


「ぶへぇ。まだちょっと赤い」


お昼休みのちょっとした時間。トイレで確認すればまだそこはほんのりと赤かった。どんだけ強いデコピンだったんだと呆れつつも嬉しい。イケメンて凄い。何されても御褒美にしか思えないんだから。それはお前だけだとツッコミを入れて来るだろう友人Aは今ここにいない。流石にまだ赤みが消えてないのは心配になったから保健室に保冷剤を貰うことにした。


「ん、まだ赤いのな」

「おっふぇ。黒尾がやったんでしょーが近い好き!」

「なんだその鳴き声みたいなの。あとそれ誰にでも言ってんだろ」


保健室に行けば何故か先生じゃなく黒尾がいて、前みたいに逃げずに何故か黒尾が私の肩に手を置いて、何故か前髪を持ち上げて薄ら赤い額をまじまじと見ている。呆れたように肩を竦める黒尾にぐうの音も出ない。ごめんね面食いで。でも好きなのは本当だし、普通に文句無しにカッコイイ顔してるからね。そりゃ好きだよね。面食い女である私が引っ掛からない訳が無かった。というかそんな呆れ顔も凄いカッコイイ。写真に収めたい。
いつだったかよりも距離はあるけど近いことには変わりない!その御尊顔に手を合わせて拝みたいぐらいだ。イケメンありがとうございます!好きです!写真ダメですか!ダメですよね!ごめんなさい!ありがとうございます!


「赤葦とまだ連絡してんの?」

「昨日もした!赤葦君ホントにずっと風邪の心配してくれてて、いい子すぎてもう生きてるのが辛い。顔も良ければ性格もいいって凄い人だ。神様かな?そうなったら迂闊に話できないね!」

「そうだな。多分神様だろうからなまえみたいな面食い女が気軽に話していい相手じゃねぇんだよきっと」

「グサッときた!黒尾は私に恨みでもあるのか!あってもいいよ!好きなことには変わりないからね!」

「恨みは有りまくりに決まってんだろ」


ナ、ナンダッテー!私は恨みを買うほどに黒尾に何かしていたというのか。…出会い頭に好きとか言われたらそりゃ恨みたくなるかな?いやでもそこにイケメンがいたら好きって言っちゃうような子なんだよ。ごめん黒尾。私の中では挨拶みたいな。もっと軽く考えてくれていいんだよ。
大きくため息をつく黒尾もカッコイイ。でも私そんなに悪いことしてないと思うんだ。女の子なら誰しもが持っているだろう欲望に物凄く忠実というか、素直過ぎるだけなんだと私の中では考えている。どれだけ美人なお姉さんでも、どれだけ可愛い女の子でもイケメンには必ずしも惹かれるもんだよ。少女漫画とか顔がいい男が必ずヒロインのヒーローじゃないか。


「あー…、いっその事なまえの目玉くり抜けばいいのか?」

「おっひょ!?何でそんな猟奇的な事になったのかな!?いくら恨んでるからと言ってその発言は流せないぞ!痛いじゃん!」

「本音は?」

「イケメンが見れなくなるの辛いったぁ!?」


同じ所にデコピンを貰った。治まりかけた赤みがまたじわじわと再発するのが分かる。何て事をしてくれるんだ。額を抑えて後退ればニィッと笑みを浮かべる黒尾を目に映した。畜生イケメンだなぁ!ありがとうございます!
痛みにも歓喜にも悶えていれば、両肩をそっと優しくそれでも逃げられないぐらいの力加減で掴まれた。思わず固まる。何事。最近の黒尾はボディータッチが多過ぎてときめきで死にそうになる。


「縛りつけてやろうか」

「ありがとうございます!!!」


乙女ゲームで攻略対象がサドを発揮させた様な言葉に撃ち抜かれた。イケメンのサドは御褒美です。
赤葦君と黒尾のランキングが入れ替わった。私の頭は至極単純である。友人Aに言えば「漸く黒尾も本腰入れたのか」と笑って目を細めてた。友人Aがイケメンランキングに参入しかけてヤバイ。


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