plan | ナノ


▼ 魔力制御ができない鱒 緑茶ver.

荒い息遣い、上気する頬の色、涙の膜を張った揺れる瞳、抵抗する腕は力が抜けていて組み伏せる事なんて容易いものであった。態とらしく濡れた唇を舐めて、アンタのモノであると己と彼女で繋がった色の無い糸を見せつける。一段と頬の赤みが増した気がして口元が緩む。ほとりと色付いた頬に流れた涙を吸い取って、それにも含まれる魔力の味に深い息がこぼれ落ちた。香る魔力は薄らとしたもので、それでも時間が経てばまた濃厚で美味そうな匂いを漂わせるのであろう。ため息は耐えない。


「ロビ…っ、終わった…?」

「ん、」


俺が顔を上げたからか、ふうふうと荒い息をなんとか落ち着かせて言葉を紡ぐなまえ。返事を返さないまま真っ赤になっている頬を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて擦り寄ってくる。本当に心臓に悪い。
今の俺が本気で戦闘を行えば、いつもの罠を貼って強襲なんて事をせずとも余裕で勝てるのだろう。皆が口を揃えて手強いというあの金色の古代の王すらも圧倒できる程には強いと思う。それ程に体に馴染ませた魔力は稀有なものだった。
力無く床に落ちたなまえの手のひらに指を絡ませれば、不思議そうな顔をして、それから困った様にはにかんで見せる。


「ロビン?」


ようやく息も落ち着いて、静かに名前を呼ばれて目を合わせる。潤んだ瞳は未だそこに健在だった。じわりじわりと指先から痺れてくるような、魔力の美味そうな匂い。荒れそうになる本能に、理性を総動員させつつため息をこぼした。困惑した顔で俺を見上げるなまえは、自身に宿る魔力がどれ程サーヴァントである俺達にとって危険なものかしか知らされていないらしい。無意識に無くなった魔力を編み出そうと彼女の体内で魔力を練る速さは異常なもので、いつ他の奴等に拐かされるか気が気でない。
ふっと息をつくなまえに目を細めた。たったそれだけの動作が危険なものであるとは微塵も気付いていない。


「厄介なモンですね」

「……うん。ごめん」


ああ違う。謝らせたいわけではなかった。申し訳なさそうに笑って、謝罪の言葉を口にするなまえをこれまで何度見ただろうか。その度に後悔して、その頭をゆるく撫でてやる。違うと言外に行ってみても、疎いこのマスターは気付かない。


「なまえ」

「うん?」


心底安心しきったような小さな笑みを浮かべるなまえに苦笑して、その首裏に手を差し入れる。擽ったそうに身を捩る姿は小動物を彷彿とさせて、そっと唇を落とした。瞬間ピタリと動きを止めて、ぶわりと顔を赤くさせるなまえに笑いが込み上げてくる。


「…あ、え、あの、終わったんじゃ」

「終わったなんて一言も言ってませんけどね」

「え、え」


挙動不審気味に身を捩って絡ませた手とは逆の手で口許を覆うマスターの可愛いこと可愛いこと。意地悪く笑って額を合わせれば、赤い顔がさらに赤くなる。茹でだこという言葉は今のなまえにピッタリな表現だと思う。本当にこの国の人間は言葉遊びが好きな文化人だと感心した。
キョロキョロと意味もなく視線を巡らせるなまえは俺と目を合わせないよう必死で、時折ぶつかる視線にはきゅっと肩を縮こまらせて反応するから面白い。絆されているなぁと思いつつも嫌悪感なんてものはなく、むしろ好意的なものでもっと踏み込んでやりたいと思うような、つまりはそういう事だ。


「手、退けてくださいよマスター。無理矢理がお好みってんなら応えますけどね」


じわりと潤むなまえの瞳に何とも言えない高揚感が湧いてくる。絡ませた手を持ち上げて、細い手首にキスをした。


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アンタのお望みのままに。



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