▼ 疲れたので青槍に甘える
大きくて広い背中をこちらに向けてリビングに座り込んでいるランサーを見つけた。そうっと気付かれないように近付いてその後に座っても、床に置いた雑誌をペラペラと捲るランサーは気付いているような感じはしない。どうせ気付いてるんだろうなぁと思いながらも、声を掛けてこない方が悪いと勝手にランサーを悪者にしてから行動に移る。
「っ痛!?」
その背中に思い切り頭突きしたら、流石のランサーも痛かったらしく声を上げた。ちなみに私も痛い。
ぐりぐりと頭を押し付けていれば、ぐるりと体勢を変えてこちらを向いたランサーの胸元へとダイブした。
「……ランサー」
「おー」
「私の背中が寂しがってるよ」
「んー」
ダラっと下げられたままだった逞しい腕が背中に回ってほんのり温かくなる。うん、落ち着く。きっとランサーは私の精神安定剤とかそんなんの代わりになると思う。
ぐりぐりと額を擦り付けてきっと赤くなってるだろうなぁと思っていれば、子供を宥めるような感じで頭を撫でられた。
「なまえー」
「ん?」
「他はいらねぇの?」
「んー、ん。今はこれでいい」
「そっか」
ランサーは優しいし気の利くやつだと思う。何があったかとかそんなの聞いてこないし、雰囲気だけで察してくれる。…ちくしょう、カッコイイな。
「釣りしてたらよぉ、収穫が五匹でな。いつもより少なくて凹んだわ」
「うん」
「まあ持って帰ってきてるからさ、今日は一緒に捌こうぜ?んで飯にしよう」
「……ランサーが作るっていう選択はないの?」
「俺捌くしかできねぇし、後はなまえが作ってくれりゃいいだろ。手伝いぐらいする」
「…うん。じゃあご飯は刺身と焼き魚と煮魚でいい?」
「見事に魚だけだな」
「お米は炊くよ」
「そら当たり前」
小さく笑いながら優しく頭を撫でてくれるランサーに私も同じように笑う。
ぐっと背中に回された腕に力が入ってそのまま倒れ込んだ。ランサーを下敷きにして私が乗っている形だ。腹筋とか胸筋とか硬いなランサー、流石全盛期なだけあるなぁ。
「ランサー、眠くなるよ」
「おー、ちょっと昼寝してぇ」
「ランサーの昼寝はちょっとじゃないでしょー」
「いいから付き合えって。なまえも寝るの好きだろ?」
「嫌いじゃないよ」
「決まりだ」
ゴロッと横に優しく下ろされて頭の下に腕を通される。所謂腕枕というやつで、英雄色を好むとはよく言ったものだ。このランサー手馴れてやがる。まあ当たり前だけども。
そんなことを考えていれば瞼は自然と重くなっていき、段々と視界は閉ざされていく。我慢するように瞬きを繰り返せばそっと手で覆われてあっさりと白旗を上げるハメになった。本日の営業は終了しましたー。
「なまえ、」
「……ん?」
「起きたら褒美くれよ」
「………ん」
「んじゃ、これは前金ってことで」
ちゅっとわざとらしく音を立てて唇に吸い付いてきたそれに、若干の息苦しさを覚えつつも甘受する。
「おやすみ」
最後は鼻先にキスされて、優しい声とともに私の意識は閉ざされた。
剋O万hit記念