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▼ 六つ子は喧嘩が強いらしい(続々)

六つ子の中で誰が一番強いのかという問に対して、我先にと六通りの答えが返ってくる。どう考えても俺/僕だと至極当たり前だろうという同じ顔をして、つまり六人が六人とも自分が一番強いというのだ。ナンテコッタイ。


「じゃあコイツにだけは苦戦しそうだなってのは?」

「ねーよ、俺が一番強いもん。圧勝圧勝」

「ノンノンノン。俺こそがNo.1、だぜ」

「殴り合いは誰にでもできるよ。頭使ってぶっ倒すのが僕より上手いやつなんていない」

「どんな手を使ってでも勝つ僕が勝てないわけないだろ」

「んーとね!力は自信あるよ!ほかより絶対!」

「苦戦とか無いでしょ。兄さんって言っても同い年だよ?僕が弱いはずないし」

「何という自画自賛の嵐」


居間に揃う六人が途端に表情を歪めて睨み合う。ひえええ、何か怒っていらっしゃる。これは適わないとそっとその場から逃げ出して、やって来たのは彼らの幼馴染で、私の幼馴染でもある弱井トト子の家。トト子は私だと知ると笑顔を浮かべて部屋へと招き入れてくれた。昔から私に対して甘々な部分があるけど、成人してあまり遊ぶ機会がなくなってからは更にドロドロに甘くなった気がする。なかなか会えないから寂しいんだと。可愛い。


「おそ松君たちの中で誰が一番強いか、ねぇ」

「うん。トト子は気にならないの?」

「そうねぇ。なまえを一番に大切にしてる人って事なら、私も立候補するんだけどね」

「な、何を…。私もトト子大切。好き」

「ふふ、ありがとう」


紅茶に口をつけるトト子は優しく笑って私も好きよと言ってくれた。可愛い。六つ子が特別視するのもよく分かる。


「でも、そうね。あの中で一番強い人でしょ?」

「そう」


顎に手を置くトト子の様になっていること。ぼうっと眺めていたら、考えるように言葉を選ぶトト子が口を開く。


「トド松君はとにかく罠を張って貶めるのが大好きなクズでしょ?確かに強いけど、罠に掛からなかったら致命傷よね。でも接近戦も得意だし」

「ちょ」

「十四松君はバッドを持ったら最強ね。というより長物関係全般得意というか。逆にメリケンとかああいう短い武器とかは下手糞なのよねぇ。そこが瑕かしら」

「待って」

「一松君は相手の急所を狙うのが誰よりも上手よね。あんまり動きたくないかららしいけど、一発 K.O.が常。けど持久戦になると途端に弱くなるのよね」

「あの」

「チョロ松君はどうすれば最速で終わらせられるかを考えて行動に移す頭脳派かしら。相手に合わせて喧嘩の方法を決めてるから一番手際がいいのよね。考え過ぎて最初の一発を貰っちゃうこともあるけど」

「え、」

「カラ松君はとにかく持久戦とあの馬鹿力が凄いわ。体力面も十四松君と五分ってところね。まあ、不意打ちとかには滅法弱いけど」

「トト子」

「何かしら?」


漸くこちらを見てにっこりと微笑むトト子に安堵の息をつく。弾丸トークはちょっと苦手で、口を挟む暇が一切ない。ニコニコとこちらを見つめて微笑むトト子に変な気分になりそうだ。いかんいかん。コレはイケナイ気持ちだ。落ち着けなまえ。自我をしっかり保つんだ。


「なんでそんなに詳しいの」

「だって私もちょーっとだけヤンチャしてたもの」

「え」

「おそ松君達に混じってね。安心して、今は何もしてないわ。大人しいもんよ」


昔の話よと言って笑うトト子に衝撃が走る。私の周りにはヤンチャしてない人がいない。内心震えていれば頭を優しく撫でられて目を丸くする。トト子は少しだけ困ったように笑っていた。


「怖い?」

「……怖い。けどトト子は私に優しくしてくれるし、話してくれるほど信頼されてるんだと思うと嬉しいって気持ちのが上かもしれない」

「かもしれない、じゃなくて言い切って欲しいなぁ。まあ今はそれでもいいけど」


ニッコリと笑うトト子を見て、怖いという気持ちで固められるほど恐怖に支配されているわけではなかった。そういえばと改めて思い出し、途中で切ってしまった話の続きを促した。


「おそ松はどうなの?」

「おそ松君かぁ」

「うん」

「…何を考えてるか分からないの」

「へ?」


間抜けな声が出てしまった。トト子は困ったように腕組みして眉を寄せて目を伏せる。首を傾げた。


「相手に悟らせないっていうか。気付けばみーんなおそ松君の足下に倒れてるのよねぇ。派手な音はよく聞くんだけど実際目にしたことなんて、…あら?ないわね」

「ないの?」

「……ええ、ないわね。そんなわけ、ない、のに…」


眉を寄せて頭を悩ませるトト子に驚いた。一緒にヤンチャをしていたというから、彼らの喧嘩の仕方を覚えているのも十分納得できたのに。なのに、おそ松の喧嘩の仕方だけ覚えていない。見てすらいないだなんて、そんなのは。


「バケモノね」

「……バケモノ」

「皆向かってくるのだけを相手にしてるから、他が傷だらけになろうが倒れようが関係ないのよ。だから、私も知らないの。いつの間にか喧嘩して、いつの間にかそこに立ってるの、おそ松君は」


トト子の言葉を思い出しながら、六つ子の家へと向かう。放って外に出たから文句を言われるかとしれない。喧嘩が始まりそうだったから出て行ったと言っても、納得しないのだからあの六つ子は面倒くさい。しまいには謝罪はいらないから飯作れと喧しい。私はお前らの家政婦か馬鹿野郎。


「おっ、おっかえりー」

「あれ、おそ松だけ?」

「ん?あー、寝てる」


ガラッと勝手知ったる引き戸を開けば靴を履こうとしていたおそ松と顔を合わせた。私が中に入れば、おそ松も靴を履かずに中へと戻ろうとする。


「出掛けるんじゃなかったの?」

「なまえを探しに行こうかなーって思っただけ。戻って来たし、用はなくなった」

「ふーん」


昼飯作れとでも言うのだろうか。考えながら居間へと向かうおそ松の後を追う。襖を開けた先は、死屍累々と言った言葉が自然と浮かぶ光景が広がっていた。


「あ、え?」

「なぁ、なまえ。さっきの答え合わせな」


くるりと私の前で振り返ったおそ松がニッと笑って大袈裟に両手を広げる。おそ松の背後には各々の好みの色パーカーを着た五人が倒れ伏していて、背中が僅かに上下しているのを見、生きているのだとどこか遠くの方で考えていた。


「俺が一番強い」


当たり前のように言ってのけた赤い彼は、鼻の下を擦って笑っている。確かに。松野家六つ子に手を出すなと言われるほど強い彼等に対して、一つの傷も見られないおそ松を見て、トト子が彼をバケモノだと言った理由を理解した。


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