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▼ 見るだけでいい松野家末弟

うわ、凄い本物だ。なんて思ったのは僕が小学三年生だった時。割と思い出すのは早かった方だと思う。同じ顔をした六人の兄を前にして、それを唐突に思い出した。
オカルトチックでありドリーマーみたいな前世の話をしよう。僕は極々普通の一般人だった。何の変哲もない、学力も運動能力もそこそこと言った並大抵の人間だった。それがどうした事か、大学受験の当日、雪道で車がスリップして道路に突っ込んできた。その道路にはもちろん僕がいて、見事に突っ込まれて死亡した。ううん、全然実感が湧かない。当たり前だろうけど。
日本の神様って何人いるんだろうか。八百万というからやっぱりその数字の通りなんだろうか。その数多くいる神様の中から僕を助けてくれた人がいるらしいけど、僕は全くそれについては覚えていなかった。助けてもらったということしか覚えていなかったのだ。僕の死を悲しんでくれた心優しい神様に感謝しつつ、僕は新しい命を授かったというわけだ。それが驚くことに前世ではアニメで大ヒットしたおそ松さんという、おそ松くんの二十歳バージョンである。いや、おそ松くん時代を僕も過ごしたんだろうけどその時はまだ覚えてなかったから、随分とハチャメチャしてるなぁぐらいだった。
僕も高校二年に無事に進級する事になった。聞いて驚け見て笑え。僕には友達が存在しなかったりする。笑いなよ。物凄く遠巻きに、珍獣か何かを見る目で見られてる。僕が何をしたっていうんだろうか。


「あー、なまえは悪くないよ?」

「でもトド松兄さん、流石にこの年になって友達ができないって可笑しくないかな?」

「いや、そりゃとんだ美形に産まれたからね。何で僕の弟はこんなに可愛いの。ちょっと写メ撮ろ」

「いえーい」

「可愛い」


スマホのインカメを起動させたトド松兄さんに合わせてピースサイン。可愛いじゃなくてカッコイイって言われた方が嬉しいなぁ。そう言って笑えば何故かまたパシャリと撮られる。話聞いてトド松兄さん。畜生、そんなドライモンスターでも可愛いな。


「なまえはねぇ、そのままでいいよ。他人に合わせなくていい!友達欲しかったら僕がなったげるよ!野球する!?」

「十四松兄さんが友達になったら兄さんが一人減っちゃう。それはやだよ。あと野球はしないかなぁ」

「兄さん兼友達は駄目っすか!」

「兄さんじゃないと嫌」

「あはー!照れちゃうね!」


両腕をぶんぶん振り回す十四松兄さんの隣に並んで座る。本当に照れたみたいで長い袖を口元まで持ち上げて、顔を隠すようにして笑い声をあげた。僕より十四松兄さんのが可愛いと思う。そう言えばなまえのが可愛いよと不思議そうに首を傾げられた。うーん、ありがとう。でも僕より十四松兄さんの方が可愛い。圧倒的天使。これ全国の松ファン共通だよね。


「は、何?僕よりトモダチの方を大事にしたいの?別にいいけど全力でその関係、ぶっ壊しに行くからね」

「うんん?いや、一松兄さんの方が大事だけど」

「……ひひ、建前でも嬉しいもんだね」

「一松兄さんのそーいうとこ好きになれない。もう、兄さんこっち向いて。好きだよ」

「あ…う…うん、僕も好き。なまえ可愛い」


卑屈な一松兄さんをどうすればいいのかなんて、弟の僕には手に取るように分かる。立てた膝の間に顔を俯けてボソボソとそう言った一松兄さんに苦笑する。ごめんね一松兄さんの方が何倍も可愛い。ツンデレなんだかそうじゃないんだか分かんないけど可愛いよ。
前世で言う弟松組達はこんな感じでもうものすごく可愛い。転生って凄い。お得感しかない。


「はー、友達ねぇ。うーん、無理ってことはないけど…。いや嘘。無理じゃないかな」

「ハッキリ言われちゃったなぁ。僕何もしてないんだけどなぁ。嫌われるようなことしたっけなぁ」

「あ、そういう事じゃないけどね。むしろなまえはそのままでいてくれた方がいいっていうか」

「チョロ松兄さんは僕に友達ができなくてもいいというのか」

「ごめんね。僕を優先してくれないんなら別にできなくていいと思ってる」


あっけらかんとそう言ってきたチョロ松兄さんは随分とアニメと違うなぁなんて思ってたりする。でもそこがカッコイイ。ライジングどこいったんだ。にゃーちゃん好きはいつも通りだけど。うん、真顔でそう言ってくれるチョロ松兄さんカッコイイ。


「なに、フレンド?なまえにそんなものが必要か?」

「充実した学校生活を送るには友達は必要になると思うけど」

「フッ、必要ない。何故ならなまえにはこの俺っ、がついているからな…」

「見事な決めポーズ有難いんだけど友達は欲しいなぁ」

「…簡単に俺だけを見ていればいいと言ったんだが伝わらなかったか?ブラザー?」


カラ松兄さんの友達を「そんなもの」発言には苦笑したけど決めポーズに肋折れそうになった。本当に折れそうになるって凄い、この世界どうなってるの。サングラスを外して真っ直ぐにこちらを見てくるカラ松兄さんは普通にカッコイイ。何でこの状態のままでいないんだとファンの女の子たちは発狂もんだよ。うん、カッコイイ。


「えー?友達ぃ?友達と遊ぶぐらいならお兄ちゃんに構ってよ」

「なんでそんなに僕に友達作るのに消極的かなぁ?」

「おま、あったりまえだろ。俺の可愛いかわいーい弟を、どこぞの馬の骨と遊ばせるとかもうっ、お兄ちゃん気が気でないね」

「三年間ずうっと一人ぼっちは嫌なんだけどなぁ」

「なまえの嫌がる事はしたくないけどさぁ。あんまり聞き分け悪いと悪いことしちゃうよ?」


にぃっと笑うおそ松兄さんのカッコイイことカッコイイこと。松ファン大興奮ですありがとうございます。お兄ちゃん宣言には心打たれるものがあるよね。寂しがり屋のくせに独占欲だけはいっちょまえだなぁおそ松兄さん。そんな所が可愛いしカッコイイ。僕のお兄ちゃんは最強なんだ。
兄松組は驚く事に可愛いを兼ね備えたカッコイイが半端ない。可愛い<カッコイイだね。正直な話、兄さん達の絡みを見るだけで満足なのだが、如何せんこの兄さん達は僕の事を殊の他気にしてくれているらしい。気付けば誰か一人は僕の傍に居る気がする。ついチョロ松兄さんに他の兄さんと一緒にいなくていいの?等と声をかけてしまった事がある。


「気持ち悪いこと言わないで。なまえと居たいからここに居るんだよ」


当たり前だろと言わんばかりの言葉が返ってきた時にはどうしようかと思った。その時はもう普通にありがとうとしか言えなかった。なんだか僕が思ってた感じと違う感じになってきてるなぁなんて、僕の膝を枕にしてるおそ松兄さんを見下ろしながら、もしかしたら今更なのかもしれないと思ってしまった。


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