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▼ 勝算しかないエルキドゥ

「サーヴァント、ランサー。エルキドゥ。君の呼び声で起動した。どうぞよろしく、マスター」


召喚陣の真ん中に立つエルキドゥは、目を奪われる程に綺麗だった。今日ばかりは語彙力が乏しい事を心の底から恨んだ。言葉も出ない程に見蕩れていたなんて初めての事で、ふうわりと舞う新緑の長い髪がエルキドゥの体に添うのをただただ見ていた。返事がないことを疑問に思ったのだろう。こてりと首を傾げてするりと私の頬を撫でた。驚いて肩が大きく跳ねてしまい、何かを口にする前にくすくすとエルキドゥが笑う。


「可愛らしいマスターに喚ばれたなぁ」

「どこをどう見たら可愛いの…」

「可愛いよ。マスター、名前を聞いてもいいかな?」

「あ、えっと、なまえです。よろしくお願いします」

「なまえ。なまえだね。よろしくなまえ」


エルキドゥと言えば、あの古代メソポタミア文明にてギルガメッシュ王の朋友ではなかったか。もしや私は物凄く運がいいんじゃないだろうか。エルキドゥが凄いのは知ってる。何が凄いのかよく分かんないけど何かしら凄いことは知ってる。馬鹿丸出しの考えだけど仕方ない。口に出てたらしく頭を撫でられた。エルキドゥはきっと面倒見がいい。


「なまえは随分と慎重派なんだね」

「聖杯戦争って奴はちょっとのことが命取りになるかもしれないから慎重になっちゃうんだよ。アイアムヘタレ。ごめんねヘタレで」

「ううん、大丈夫。それに僕がなまえを危険な目になんて合わせないよ」

「カッケェ」


俯きがちの私の顔を覗き込んで微笑むエルキドゥハンパねぇ。堂々とそんなことを言ってのけるとは男前にも程がある。男か女か分からん容姿だけども。
積もる話はあるが端的に述べよう。第四次聖杯戦争に参加することになったのだ。私が。真っ向から戦う事を大の苦手としている私が、特に有名所の魔術師でもない私が、まさかこの戦争に招かれるなんて思ってもみなかった。いや違うな。真っ向からが苦手なんじゃない。戦う事が苦手なのだ。正直な話、こんな戦争に出るのが怖くないはずがない。たとえどんな願いを叶える願望器が手に入るとしても、それの代償として他陣営と戦わなければいけない。私は口も上手くないし、話し合いで勝てるなんて出来るわけがないから自然と戦う事を強いられてくるんだけど、私も私が喚んだサーヴァントも傷を負うのが凄く嫌なのだ。だって痛いじゃないか。


「ううう、臆病なマスターでごめんエルキドゥ」

「どうして謝るの?」

「だってエルキドゥも本当はこんなに慎重じゃなくてもいいって思うでしょ?」

「僕のことをちゃんと気遣ってくれてるだけだろう?優しいだけじゃないか、マスターは」


さも当然というように言って笑顔を浮かべるエルキドゥの輝かしいこと。優しく頭を撫でられて泣きそうになってくる。良い奴だなぁ、エルキドゥ。


「なまえのその何重にも掛けた策が破られたとしても僕がいる」

「…うん」

「僕はやられないよ。だってなまえが言う凄いサーヴァントなんだから」

「うん」


ふわりと微笑むエルキドゥに何度も頷く。やっぱりエルキドゥ凄い。こんな臆病者の私でさえ何とかなるんじゃないかと思ってしまうんだから。召喚の際、媒体も何もなく相性召喚で喚んだサーヴァントがエルキドゥで良かった。私の手をとってくれた、引っ張ってくれるサーヴァントがエルキドゥで良かった。


「ありがとう、エルキドゥ」

「うん、やっぱりなまえは笑顔が可愛いね」

「エルキドゥ見る目はないね。でも自信が出てきた気がする」

「ううーん。その自己評価の低さはどうにかならないかなぁ」

「妥当な評価だと思ってるんだけど」

「決めた。聖杯に掛ける願いはなまえの自己評価を改めさせるようにと願おう」

「万物の願望器になんてちっちゃな願いをっ!?」


閃いたというような顔で指を立てるエルキドゥにドン引きした。何でそんなやってやるぞみたいな顔してるんだ。放っておいたら意味もなくシャドウボクシングとか始めそうだ。
新緑の髪をふわりと風に靡かせながら微笑むエルキドゥは、優しく私の頭を撫でる。


「大丈夫。僕がなまえを守るよ」

「……お願いします」


全然脈絡は無かったけど、私のランサーがこんなにもカッコよくていいのか。真っ赤になりそうな顔を俯いて隠しながらそんなことを考えた。


□150,000hit記念



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